
20181015
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>愛を描く(1)モード・ルイス 幸せの絵具
『幸せの絵具 愛を描く人モード・ルイス』8月4日に飯田橋ギンレイで鑑賞。
モード・ルイス: サリー・ホーキンス
エベレット・ルイス: イーサン・ホーク
監督: アシュリング・ウォルシュ
カナダでもっとも有名な画家というモード・ルイス(Maud Lewis1903-1970)。
はて、私はまったく知りませんでした。アメリカで人気のモーゼスおばあさんは知っていましたが、カナダで人気のモード・ルイスは、日本の美術界ではほとんど知られてきませんでした。
モードやモーゼスおばあさんたちの絵は、素朴派とひとくくりにされています。ナイーヴ・アート(Naïve Art)とも。アカデミックな美術教育を受けたことがない画家の絵。
そのひとり、アンリ・ルソー(1844-1910)は、今や現代美術の画家のなかでも、もっとも重要な画家のひとりです。ルソーも作品を発表し始めたころは、「素人の税関吏のへたくそな絵」と評されていました。
モードの絵も、その初期には「こんな絵、うちのガキだってかいてらぁ」と、近所のおっさんに酷評されるほどでした。でも、あたたかい素朴な絵は、しだいに知られるようになっていきました。
実在のモード・ルイス(晩年)

最初にモードの絵が知られるようになったのは、避暑のためにカナダに来ていたニューヨークのジャーナリスト女性の報道によって。
モードは、住んでいる小さな家(というより小屋)の壁全部に自分の好みの絵を描いていました。それを目にとめたジャーナリストは、何枚かの絵葉書カードを購入。新聞でモードの生活を紹介します。
海辺の小さな小屋に、夫エベレットとふたりで住み、エベレットが売り歩く魚とともに、クリスマスカードを1枚10ペンスで売り歩く生活。モードの絵がアメリカ副大統領だったニクソンに買い上げられるほど有名になったあとも、ふたりの生活は清貧のままでした。
ルイス家の前に立つモード

アシュリング・ウォルシュによる映画の物語は。
モード・ドゥーリーは、両親を亡くしたあと、伯母の家にひきとられることになりました。モードの兄チャーリーが相続した家を売り払ってしまい、モードの住むところがなくなったためです。しかし、伯母との折り合いが悪く、自立したいモードは、家政婦募集のチラシを見て、エベレットの家にやってきます。
若年性関節リューマチの持病があるモードは、家政婦としてエベレットの家に押し掛けたのに、家事はろくすっぽできません。家事のあいまに、家じゅうの壁に絵を描くようになります。しかし、エベレットはしだいにモードの絵の才能に理解をしめすようになり、家事はエベレットが受け持ち、モードに絵を描かせる時間を作ってやります。
モードの手は、絵筆をにぎるのも不自由ですが、その絵は人々の心をなごませ明るくするのでした。エベレットは、絵を買いたいという客が押し寄せることににうんざりしたりしますが、モードとふたり、海辺の小さな小屋に死がふたりを分かつまで清貧を貫いて暮らしました。
ふたりの愛の物語。海辺の小屋に描かれたたくさんの花や小鳥のように、あるがままに自然に溶け込んでいる愛でした。
ラストシーンに、実在のモードとエベレットがインタビューに応じたときの実際の映像が映されます。
モードを演じたサリー・ホーキンスは、モードがそのまま出てきたように演じました。一方、イーサン・ホークは「ドキュメンタリーじゃないんだから」と、エベレットの風貌とは異なっていましたが、モードを武骨だけれど大きな愛で包んでいる姿を演じました。演じ方はことなるけれど、ふたりとも演技には定評がある人たちです。アカデミー賞の主演女優賞主演男優賞にノミネートされてきた俳優さん、この映画の演技もそれぞれ素晴らしかったです。
モードとエベレットの小さな家は、モードが描いた絵とともに、丸ごと美術館に展示されています。(ノバスコシア美術館)ふたりの死後荒れ果てていた小屋を修復復元したのだそうです。
でも、大自然の中に見る家と美術館の中の復元では印象がだいぶ違います。ふたりの家があった場所には、家の形を模したモニュメントがあるそうですが、映画に使われた家でもいいから、自然の中においてほしいなあ。
ノバスコシア美術館のモードの家

映画の最後タイトルロールの間に、モードの絵が挿入されました。
映画では、音信を断っていた伯母を見舞にいくときに持っていった絵

猫も、モードのお気に入りのモチーフでした。


カナダ、ノヴァスコシア州の光景

日本ではまとまって紹介されたことのないモード・ルイスですが、映画がヒットしたから、きっとどこかの美術館がノバスコシア美術館に交渉して展覧会が開かれるんじゃないかと期待しています。
私の希望としては、東京都美術館で開催してほしい。(第3水曜日65歳以上無料だから)
<つづく>