
20250313
ぽかぽか春庭アート散歩>2025アート散歩あるいて探す春隣(6)ファンタジーの力展 in 龍子記念館
大田区立龍子記念館。どの駅からも遠い住宅街の中にあり、よほど見たい展示か特別イベントがあるときじゃないと訪問しない美術館です。65歳以上無料。
今回の展示は現代美術だからパスと思っていたのですが、現代美術館で見た高橋龍太郎のコレクションがとてもよかったので、高橋の収集の目を信じて出かけることにしました。作品の作者ではなく、コレクターに心を寄せて観覧を決めるのは、私にしては珍しいこと。
2021年に高橋コレクションの現代美術と川端作品のコラボ展示は2021年に最初の企画があったのですが、私は高橋がどんなコレクターかも知らず、龍子記念館は遠いので、見にきませんでした。龍子記念館で高橋コレクションを展示するのは、高橋の精神科クリニックが1990年に蒲田駅の近くに開業して以来、大田区とのご縁ができたからです。
2024年現代美術館での高橋のコレクション展「日本現代美術私観」がとても見ごたえあり、現代美術苦手の私にも高橋のコレクターセンスが心地よかった。高橋の選んだ現代美術がどんな風に日本画家川端龍子とコラボしているのかって、興味しんしん。今回の龍子記念館での、川端龍子作品と高橋コレクションの共通項は「ファンタジーの力」
エントランス最初の龍子作品は、242.5×728という大きさに圧倒される。
「花摘雲」1940

龍子が旧満州を旅した時の大地と空一杯の雲を描いたという。野の花を摘む天女の雲が浮かび、花は空へと運ばれる。龍子が中国戦線拡大に向かう世相の中で描いた連作「大陸策」の四が花摘雲です。大陸策のニ は、以前龍子記念館で見た「ジンギスカン」。ラクダの群れの中に鎧姿の源義経が座っている絵で、義経がジンギスカンに転生したという伝説を絵にしたもの。透明っぽい戦闘機に乗って香炉峰の上を飛ぶ絵「香炉峰」(大陸策三)も、義経転生ジンギスカンも、日本の大陸進出を夢見るファンタジーだけれど、大陸進出正当化という意義を含んだ「大陸策」ですが、それを取り払えば、花摘雲がいちばん毒なく現代の観客にも受け入れられる。
第1章「旅立ち」には、「花摘雲」のほか、龍子の旅行鞄が展示されていました。第2章「そこにいるのは誰?」第3章「土と光」、風の物語。第4章「夢の領域」。
コラボでいい組み合わせと思ったのは、第5章の「海の物語」の龍子「龍巻」と草間彌生の「海底」のコラボ。龍巻というのは、海面に立つ巨大なたつまきですが、龍子が描いたのは、龍巻の下にある海の中。イカもエイも海底に向かって下降中。海の上に立つ龍巻は、海の底にもトルネードが起こり、海中の生き物は渦巻に飲み込まれているのでしょう。草間彌生の「海底」は、車のホイールが並んでいる間を草間のおとくい、ペニス形がぎっしり埋め尽くしています。
草間彌生「海底」「自転車と三輪車」 川端龍子「龍巻」

海の底の前に自転車と三輪車が置かれている理由はわかりませんでしたが、 勝手な解釈によると。海底で生じるエナジーが、地上に解き離れたとき、人は三輪車や自転車をこいで、自分の力で進んでいこうとする。てなことかな。
高橋コレクションは現代美術館で見た「現代美術私観」が圧巻でしたが、今回のコラボ展示もなかなかの品ぞろえ。高橋は精神科クリニックを大田区蒲田に開業し長年診察を続けてきました。大田区とのご縁で、コレクションを大田区内の施設で公開することも多い。
今回のコラボを企画実現したキュレーターは、木村拓哉!主任学芸員にして副館長。現代美術に合わせて龍子の作品を選出したセンス、すばらしい。展覧会を作り上げるのは、ひとりの力だけではないと思いますが、龍子記念館のキムタク、ありがとう。
<つづく>