閑寂肆独白

ひまでさびしい本屋のひとりごと

日本の「車」のこと/「道路運送今昔雑記」

2022-02-12 07:20:26 | 日記

物事が「何でこうなったの?」また「何でその先続かなかったの?」について興味を持っていることはすでにお伝えしている。その範囲は多方面なのだけれど、ことに「動く機械、使う道具」のへの関心は深い。「ネジ」についてズット考えていることは今も変わりがないが、「車」についても似たところがある。 「すべての道はローマに通じる」とは有名な言葉だと思うけれど、ではその道の構造は?どんな道具がその上を通っていたか? そこまで伝えてくれる本は少ない。 それはさておき、日本で歴史上「車両」といえるものがあったか?
 「道路運送今昔雑記」・野口亮 という本が手に入ったので見てみた。日本の古代・中世から近世に至る「荷物の運搬」について簡潔ながらわかりやすく説明してある。駅伝の役所について「人家の真ん中に役所があったわけではない、伏兵の襲撃を避けるため、後方に広い空き地のある場所を選んだ」とあるのはちょっと驚いた。これまでに聞いたことがない話。陣屋などの配置図は方々にあり、これまでもいくつか見ているのだが、この視点は初めて知った。近世の宿場とは少し違うかもしれないが、気を付けてみなければならない。
 享保六年の触書という有名な触書がある。何で有名かといえば「新規に巧み出し候事自今以後堅く停止足り」「物数奇にも仕出し候類は追而吟味を遂げ停止申し付くべく・・」等という新規改良を全く禁じるという命令が出たことである。
 又、「道中奉行の官職を置いたのは交通の保護・助成のためではなく、諸侯の動静監視等の密命を帯びていた」とある。この命令は一つの事象にとどまらず、すべての生産活動に大きな掣肘をもたらしたことはよく知られている。
 それでも個人間の親書のやり取り、即ち飛脚便の発達は避けられなかった。これは人間が担いで走れば一応の対応はできる、「物」を運ぶにはどうしたかが小生の関心なのだ。馬一頭には米俵3俵が限度、橋のない川でも馬ならかなり深くてもわたることができる。それ以上の荷は?  よく知られた大八車について「江戸神田山を切り崩して沼地の埋め立てする土砂運運搬のため創造されたもので積載量が人八人分に相当するので人呼んで大八車と言ったと伝えられる」御傳馬方旧記に「享保十二年、江戸に大八車が二千輌あった」と記されているとある。
 先にローマのことと取り上げたが、そこでは「チャリオット」というのをはじめ、「馬車」がかなりつかわれていて道路もそのために基本的に石畳だった。
 雨の多い日本で道路をぬからないように工夫した話は聞かない。それは車輪の、特に重い荷物の通行を考えていないからだ。
せいぜい大名行列や公家の弊紙使が通る時に白砂をまいたくらいでこれは見てくれを考えてのことに過ぎない。 
馬に関しては、日本では「蹄鉄」の使用がなく、「去勢」の技術もなかったので西欧・アラブ、そして北部中国のような馬の利用の発達がなかった。せいぜい藁靴を履かせる、爪を削る程度では速足で長距離を走ることはできないし、重い荷を引っ張ることも限度がある。車に関しても近世初頭の絵図には車輪が板のハギ合わせで、いわゆるスポーク利用の車輪はかなり後からの様である(中国ではごく早くから使われていた)そして小生の視点は車軸・軸受け、回転部の構造。
 全般に鉄の利用が遅かったことも知られているが、軸受け・ハブに鉄輪を使うのはズット後、それまでは革を巻いていたらしい。これでは円滑な回転は得られない、
鉄の利用が始まっても「ベアリング」を知らない。また鉱物性の潤滑油もなかった。江戸期になっての大八車はさすがに鉄製のハブであったようであるが、中国の様子は結構もたらされていたにも関わらず利用することを考えなかった不思議。
 重量物を陸路で運ぶことを考えないから当然ながら「舗装」という感覚もなかったのだ。雪国では泥濘に藁筵を敷いたようであるが、これは今でも使えるのではないか、少なくともスリップはかなり防ぐことができると思われる。
ある発見・発明は次々と波及すると思うのだが、我が日本ではそうはいかなかった事例はまだ幾つもある。以前からの関心の「ネジ」と同じ問題である。
「ナゼ」についての関心は尽きることがない。
 この本はあまり知られていないのではないかと思う、歴史に関しては半分までで、あとは鉄道の発達と運送業の乱立で制限・統制に関することの記述で、これも昭和11(1936)年ころの世相を知るうえで面白い記述である、一般的な「歴史記述・年表」等には記載されない事柄だと思う。
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