2020.4.20(月)曇り 雨読「医者のデマ」
「医者のデマ」近藤誠著 (株)エクスナレッジ 2020.3.1初版 借本
新型コロナウィルスの感染拡大が杞憂ではなかった。じょんのびは4月8日から営業を自粛し、イベントも全て中止して、できる限り外出しないようにして備えている。さて本書は綾部市図書館に依頼していたものだが、全国に緊急事態宣言が出されて閉館直前に借りられたものである。本書の発行日が3月1日というのは微妙な日付である。原稿ができあがった頃にはコロナについては何事もなかったのだろう。感染症に関しての記述は見られない。逆に「手洗い、うがい、マスク、ワクチン、クスリ。すべて風邪・インフルエンザに無力」という記事がある。ウィルスは1mmの1万分の1の大きさでどんなマスクでもすり抜けて肺に入ります、というのが理由なのだが、現在の状況をみて先生はどのように考えておられるだろうか。先生自身も往診時にマスク無しで対応しておられるのだろうか。そんな時に「手洗い、マスクは有効」という記事が新聞に載った。(2020.4.17京都新聞)国際組織「コクラン共同計画」の「系統的レビュー」で確認されたものだが、これは世界中の数多くの研究から、病気の治療法や予防に有効と思われる方法を抽出しているものである。詳しくは「コクランジャパン」のHPで見ていただければいいが、マスクの有効性はウィルスを通すとか通さないとかの問題だけではないと考えるのである。
コクランジャパンの記事、アベのマスク(これは効きそーにない)
さて前回「体温を上げると健康になる」齋藤真嗣著を紹介し、今回の「医者のデマ」はそれに対する反論かなあと思っていたが、対するのは齋藤氏ではなく安保徹さんであった。
初っぱなに「体温を上げると健康になる?低体温の人の方が長生きです」という項がある。ここで安保先生を名指しで、体ポカポカと免疫力は無関係と反論されている。根拠がないとされているが、確かに安保先生の書物の中にも具体的に数字を挙げた根拠は示されていない。しかし世界中に体温と免疫力に関する論文はいくつかあり、手元にある安保先生の本は医学書ではないから致し方ない。それより近藤先生の反論にも具体的な根拠は示されておらず、ハーバード大学系列病院の研究データは低体温と長寿の研究であって、免疫力の研究ではないことを付け加えておく。
納得がいかないのは次の文章である。
体温が高いのは、体内に細菌、ウィルス、毒素などの外敵が入っていて白血球などの免疫細胞が一所懸命戦っている証拠。そういう外敵が体内にいないか少ない35℃台の人がいちばん長生きです。
免疫細胞が外敵と戦っているときは熱が出るというのは誰もが知っていることだが、体温の高い人の体内では常に戦っているというのは考えられない。基礎体温が高いのは主に基礎代謝量が大きいと私は理解している。具体的には体格が大きく、筋肉量が多い、活動量が多いということだろう。必ずしも免疫細胞が戦っている最中ということではないだろう。ただ基礎代謝量が少ない方、つまり体温の低い方が長生きというのは理にかなっている。エネルギー消費量が少なくてすみ、活性酸素の発生も少ないだろう。しかしそのことが免疫力云々とは言えないような気がする。
このようなことが68項目にわたって書かれており、納得できる項も多いのだが上記2項目などは単なるうけ狙いにしか思えない。先生のがんに対する考えなど共感できるところがあるのだが、こんな本を出版されては値打ちが下がるのではないかと心配する。