2006-04-03 04:26:28
冒険者
テーマ:安全、安心
06/3/29海保博之 人事院月報
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冒険者
---リスクとのつきあい方のエキスパートから学ぶ
東京成徳大学人文学部 教授 海保博之
● 冒険者
危険を楽しむ人、危険に挑む人。こんな人たちをここでは
冒険者と呼んでおく。リスク心理学の言葉を使うなら、リスクを承知で危険なことをするリスクテーカー(risk taker)である。
危険に無頓着な人とは、危険の存在をあらかじめ認識している点で大きな違いがあるが、行動面では、区別がつかないことがある。たとえば、子供の多くは、危険に無頓着なために危険なことをするが、彼らを冒険者とは見なさない。
●冒険者にも2種類がある
冒険者には、ポジティブ冒険者とネガティブな冒険者とがいる。
ポジティブな冒険者とは、たとえば、
・ 誰にもできないと思われていた難度の高い技に挑む
・ 人類未到の大陸横断に挑む
・ 誰もが解けないと思っていた問題を解くのに挑む
いずれの例も、社会を明るくし社会を進歩させるのに役立っているし、結局は、人類の進歩にも貢献することになる。これは、本人自身が危険の結果のすべてを引き受けることになるので、普通は、安全、安心の問題にはならない。
一方、ネガティブな冒険者とはこんな人である。
・ 交通ルールを無視してスピードを楽しむ
・ ギャンブルにあり金のすべてを注ぎ込む
・ 人に良いところを見せたくて出来もしないことをする
彼らの多くは、社会的なインパクトへの配慮をかき、自分の楽しみ、自己顕示力の発揮、思い込みのために、自分を破壊させるだけでなく、周囲にも多大の迷惑をかける。
● 危険を引き受ける難しさ
この世で生きていこうとする限り、いつでもどこでも程度の差はあっても危険はある。それにおびえてしまえば、生き方が臆病になる。「縮小人生」をおくることになる。
そうかといって、日々の生活や仕事で、いつも危険と格闘しなければならないようでは、今度はストレスに負けてしまう。
危険とのつきあいは、何にしても極めて難しいところがある。
図1 リスクテーキング行動のポジティブな面とネガティブな面。
● 危険に備える
どんなリスクがどれくらいの確率で存在するかを知ることをリスク認知という。リスク認知の感度と精度が優れていれば、事前にリスクを回避したり、それに備えることができる。それが鈍っていれば、リスクにもろに直面してしまうことになる。
冒険者はリスクの認知には優れている。したがって、リスクがもろに自分に降りかかることがないように、あらかじめ周到な準備をしてから行動をする。
安全、安心の観点からすると、ポジティブな冒険者であっても、その行動にはつい批判の目を向けたくなる。「そんな無謀なことをして」「身の程知らず」と言いたくなる。しかし、あまりその批判が強くなりすぎると、社会全体が「縮小社会」になってしまう。
●領域分け
そこで一つの提案。それは、この領域ではリスクの高い行動を認めるが、この領域では、認めない、というように領域によって、リスクとの付き合い方を変えるのである。「領域分け」と呼んでおく。
たとえば、公共交通の日々の運行で、冒険的な行為ムムその多くは違反になるのだがーーは絶対に許されない。しかし、会社の将来の方針を作るための企画会議では冒険的な発想を許す、あるいは、スポーツの訓練での挑戦的な試みは、事故予防のための十分な備えをした上で、どんどん推奨する。
このような領域分けの考えは、2つの点でメリットがある。
一つは、人生、社会を縮小させる力と拮抗できることである。
繰り返しになるが、安全、安心問題は、考えれば考えるほど、「危ないことはするな」「危険を避けよ」となる。そのためには、やりたいこともやらないほうが良いとなりがちである。それを、この領域では、大いに冒険してもよい、ということになれば、人生にも社会にも活力が出てくる。
もう一つのメリットは、リスク意識を高めることである。リスクによって領域を分けるためには、あらかじめリスクへの備えが十分か、さらに、リスクに遭遇してもその対処ができるかどうかを常に考えておく必要がある。このことがリスク意識を格段に高めことになる。