第13回 ヒヤリハットの心理学
「高齢者は、出来そうなことと出来ないこととの間に齟齬があることを知る」
1 イラスト案
2 枠を跨ごうとして足がひっかかって転びそうになる高齢者
3 その隣を若者があっさりと跨いで通っていく
4
5
「解説」
私たちは、自分の身体でできることをかなり正確に知っています。目の前にコップをとろうとするとき、自分の腕でそれがとれるところにまでこないと、コップをつかむ動作をしません。実は、こうした動作は、生後3か月くらいの子どもでも可能だそうです。
ところで、心身の衰えがはじまる50歳代の心理特性の一つに、出来ると思ってやったら、出来なかった、というのがあります。自分の能力についての認識(メタ認知)が充分でなかったためです。
それまでは出来たのだから今度もできるはずとの思い込みは、誰にもあります。
しかし、高齢期に入りつつある人は、自分の身体能力の衰えを知ろうとしない、というより認めたくないところがあります。何度となく「痛い目」に会わないと、衰えを認識しようとしません。
それが、しかし、高齢者の事故を引き起こしてしまいます。
身体能力がはっきりと衰えた後期高齢者には、バリアーフリーの環境を用意するようになってきましたが、高齢者の入り口にさしかった人々の支援環境は、意外となおざりではないかと思います。
「類似ケース」
○かなり大きな水たまりがあった。飛び越えられると思ってジャンプをしたが、わずかに及ばす、靴を水で濡らしてしまった。
○電車に間に合いそうになかったので、階段を駆け上がったら、つまずいて転んでしまった。
****本文 20行 イラストを除く
111112222233333444445555566666
30字 23行 700字 タイトル抜き、本文のみ
13回 徹底追及 ヒヤリハットの心理背景解説
「身体能力の衰えをきちんと認識するにはどうしたらよいのでしょうか」
「背景解説」
思春期の子どもは、身体の能力の発達が心の機能の発達をはるかに上回ります。身体が先に動いてしまいます。そして、時折、身体の暴走さえ起こってしまいます。
高齢者では逆に、身体の衰えが心の衰えより急です。頭ではできると思っていても身体は言うことをききません。
こうした心身間の齟齬を大きくしないため高齢者にできることは、というより、高齢者がしなければならないことをいくつか挙げてみます。
一つは、「ユックリズム」の実践です。身体の動きを自覚的に7割程度までゆっくりとさせることです。「自覚的に」というところに注意してください。これは、心で身体をコントロールすることを意味しています。
2つは、一日の生活の中で身体の衰えを実感させられるようなことがなかったかを内省してみる習慣をつけることです。
3つは、自分と同年代の人々の身体動作を観察したり、語り合ってみることです。
チェック「あなたの身体と心の齟齬の認識度はどれくらい」******
自分に「最もあてはまることを”3”」「まったく当てはまらないことを”1”」として3段階で判定してください。
1)やろうと思ったことはだいたいできる( )
2)何事も人より速くできる( )
3)やってみてしまったと思うようなことは少ない( )
4)つまずいたり人混みでぶつかったりすることはない( )
5)もっと注意すれば転んで怪我をするようなことは減る( )
*10点以上なら、心身の齟齬の認識が低い方です。
*********本文 24行