00/7/6海保 現代用語の基礎知識
心理学はどこから来てどこへ行くのか
●人類はいつ頃から「心」を持つようになったのであろうか。多分、数万年前とされる言語の誕生あたりだとは思うが定説はない。しかし、多くの学問の誕生と同じで、存在はしていても、それに目を向けて学問として体系化するのは、存在そのものよりもはるか後になる。
●心の誕生時期は不明でも、心理学の祖型の誕生ははっきりしている。ギリシャ哲学者アリストテレス(紀元前384-322)の「霊魂論(De Anima)」に始まる。しかし、その後、近代まで、心理学の進歩は微々たるものであった。心についての思索は、宗教にゆだねられていて思考放棄の状態だったからである。「哲学者による」心理学が再び出現するのは17世紀からである。自我の存在が認められるようになってようやく、心(me)をみずからの心(I)で思索してみる試みがなされるようになってきた。ちなみに、2000年間で最大の「発明」として、自我を挙げている人もいる。
●しかし、現在ある心理学の膨大な知見は、ここ100年の間に蓄積されたものである。哲学者の思索から踏み出して実験という方法論を採用したこと、さらに、自我の存在が一般化してI(主体としての--観察する--自我)とme(客体としての--観察される--自我)とが織りなすさまざまな心の世界が見えてきたこととが、心理学の発展を促してきたと言える。
●さて、世紀の変わり目のこの時期、心理学の今はどうなっているのか、そして、これからどうなろうとしているのであろうか。
今の日本の心理学は、端的に言うなら、「基礎医学的」心理学から「臨床医学的」心理学へと重点を移しつつある。基礎医学的心理学とは、心を知ることそれ自体を目的とする心理学、臨床医学的心理学とは、心の病を癒しさらに心の健康を作り上げていく営みに積極的に関与していくことを目的とする心理学をここでは意味している。心理学部の創設、カウンセリング学科の設置、あるいは、臨床心理士や学校心理士などの資格制度の整備に、この重点移動の一端を垣間見ることができる。この背景には、あらゆることを心の問題に還元してとらえようとする心理主義の高まりがある。
さらに、基礎医学的心理学には、脳科学と遺伝子科学の波が押し寄せつある。心の何をどのように解明するかについての新たなパラダイム構築が必要とされるようになってくるはずである。そのとき、人と人とのつながりの中で心をとらえる社会的構成主義の視点が重要になってくるであろう。