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東京ステーションギャラリーで開催中(〜11.28)の小早川秋聲の展覧会を見に行く。場所は東京駅の建物の中、丸の内北口で改札を抜けると右手に入口がある。
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小早川秋聲は1885年に鳥取県日野郡のお寺の長男として生まれた。9歳の時に東本願寺の衆徒として僧籍に入り、その後実家の寺に戻るも絵が忘れられず京都の絵画専門学校に入学、しかし、水墨画を学ぶためすぐに退学し、中国に渡る。1907年に陸軍に入隊している。大正に入り、1914年に文展に初入選、次々に力作を発表、また中国、欧州、エジプト、アメリカなど各地に出かけ、作品を制作している。日本が戦争に入ると従軍画家として終戦まで活躍した。しかし、その後体調を崩し、戦後は創作活動は減り、1974年に亡くなった。
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作品展は殆どが個人蔵ながら112点もの作品が展示され、海外でのスケッチや小品も出展されている。若い頃の作品は歴史上の人物などが中心。その後は中国の風景から始まり、エジプトカイロの砂漠やインドのタジマハール、グリーンランドの氷山など当時の人としてはかなり珍しいモチーフの作品も多い。
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また、偉人を描いた(聖徳太子、山中鹿之介など)ものや富士など風景画も出展されていたが、その画力には驚かされる。
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満州事変(1931年)以降は従軍画家として陸軍の委嘱を受け、戦地に度々派遣されている。ただ、洋画家の藤田嗣治とは違い、華々しい戦闘場面や勇敢な日本兵を描いた絵画より戦火の中厳しい行軍で苦労する兵隊や戦争で亡くなった者への畏敬を感じさせる作品が多く、『護国』『御旗』などは英霊を忘れまいとする作品である。
一方で戦前の教科書の挿絵に用いられた『日本刀』のように日本兵の威厳を描いた作品もある。
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今回の展覧会の中で私が注目したのは『國ノ楯』(151×208cm)という作品。横たわる日本兵の遺骸の頭には国旗をかけられ、手を胸の前で組んだモチーフである。当初の作品には遺骸の上に桜の花が描かれていたと言われている。ただ、この作品は陸軍から唯一買上げにならなかったため、彼自身で保有していたもの。戦争が終わり、花の部分を黒く塗り潰し、改作した作品である。この絵を見て何を感じるのか。
陸軍がなぜ買い取らなかったかは不明だが、厭戦感を引き起こす作品として買い取らなかったようである。それだけではなく、陸軍もそのインパクトの大きさに圧倒されたものと思われる。
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また、この作品のそばに『合掌』と題した戦争未亡人を描いた作品を見て、単に従軍画家として戦意高揚を狙うわけではなく、戦争の現実を描こうとした姿勢も見てとれた。
一方で戦後は戦争に加担しつつも人の死を前にどう伝えるのかを悩んだ小早川秋聲が見えてくる展覧会であった。私は戦争はこういうものと伝えたかったのではないのか、と思った。
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また、このギャラリーは東京駅の中にあり、階段の昇降の際にもすぐ横に赤煉瓦がある。ギャラリーから出ると2階のバルコニーのような廊下に出るが、上から東京駅のコンコースを眺めることもあまりない。
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また、コテ細工の十二支も飾ってある。絵画鑑賞の趣味はなくとも歴代の東京駅の模型も見ることができ、鉄道ファンでも楽しめるギャラリーである。
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