お世辞にも上品な本とは言えないが、清冽な印象は残る。江波杏子、いしだあゆみ、前橋汀子、倍賞美津子、えーとあと誰だっけ、と言いたくなるほどの派手な女性遍歴(それにしてもいい女たちとつきあってるなあ)。
そんな奔放さを、照れもなく、衒いもなくそのまんま描いている。いしだあゆみのベッドで
「すいません、寝小便をしてしまいました」
なんてエピソード、普通は書けましぇん。
率直さは自分の出生にも徹底していて、母親の不倫の果ての子どもであり、そのために長男からついに心を開いてもらえなかった過去など、泣かせる。「朝鮮学校の悪い連中とつきあっていたので、在日だと間違われたこともある」いいですそこまで書かなくて。むしろあまりに率直なので、岸恵子についてだけは関係を徹底否定するあたりがかえって怪しいです(笑)。
彼の作品をほぼリアルタイムで観ているので、それぞれのコメントが面白いったらない。「影武者」での黒澤明への愛憎(勝新太郎の降板については、ショーケンの証言がいちばん信用できる)。神代辰巳を“ただひとりの師匠”と崇拝していたこと。「傷だらけの天使」の現場がいかにめちゃくちゃだったか。「前略おふくろ様」の脚本をめぐる倉本聰とのかけひき……いやーすごいです。
萩原健一はおそらく誰よりもプロデューサー体質の人だったのであり(過去形で語っちゃまずいか)、だからこそ自分の職分をおかされたと激昂してあの恐喝事件に結びついた……とは彼に好意的すぎるだろうか。
すべてが彼の主観を通してしか語られないため、どの程度の確度がある話なのかはわからない。でも話半分にしても「傷だらけの天使」のおしゃれさは、ショーケンがビギのファッションをとりいれたことによるのは確実だし、松田優作がその現場をじっと見ていたというエピソードも納得できる。
「死人狩り」の主題歌に、嫌がる柳ジョージを説得して日本語で「雨に泣いてる」を歌わせたあたりも、彼の「仕切りたがり」体質を物語っている。有能ではあるけれど、感情を制御できないプロデューサー。彼はそう総括できるのではないか。ってほんとに過去形で語っちゃいけないけど。