少なくとも、こんな作品が製作され、公開され、評価され、あまつさえヒットしているという現実は、日本映画ファンを勇気づけてくれる。
こんな作品……4時間38分という観客の生理を無視した上映時間(休憩ありますよ)の商業映画が、これほど心をゆさぶるとは。
ストーリーは冒頭に提示される仮面劇で言いつくされている。棲みついた怪物が人間を襲い、人間は怪物に変わる。その怪物もまた人間を襲い……光市母子殺人事件をモチーフに、復讐の連鎖が何を生み出すのか、何を失わせるのかを描いている。
幸せな一家が散歩をしている。彼らが見上げる近代的なマンション群は「まるで天国みたい」に見える。危ういぐらいに幸福な風景だ。
しかし二女のサトが近所のこどもたちと突堤で遊んでいるあいだに惨劇は起こる。サト以外の全員が殺されてしまい、犯人は自殺する。つまり、彼女は復讐する対象を失う。
同じころ、妻とこどもを未成年者に殺された青年トモキはテレビカメラに向かってつぶやいている。「わたしが、犯人を殺します」サトはその青年に復讐を仮託する。新たな家族とともに静かな生活をはじめたトモキは、サトに「家族を殺された人間は、幸せになる資格はないと思います」と宣言され、次第に壊れていく。
役者がみんないい。家族を失ったサトを引き取りに来る祖父を演じた柄本明は、彼女を見失った瞬間に悲しみを爆発させる。
殺人犯はうわさの忍成修吾。若手ではナンバーワンという評判はきいていたけど、ほんとにすばらしかった。
彼を養子に迎える若年性アルツハイマーを病んだ女性はなんと山崎ハコ!失いつつある記憶におびえ、だからこそ発する言葉に(過剰なまでに)誠意をこめざるをえないあたり、ハコの九州訛りがなければ嘘くさくなったかも。口調はオールナイトニッポンのDJだったころとほとんど変わらなかったのがうれしいっす。
そして、もっとも輝いていたのは復讐代行業を営む村上淳。贖罪のために彼がえらんだ方法が殺人だったという皮肉を軽々と演じていておみごと。彼の軽さがあったからこそ、「2010年の『罪と罰』」というテーマの重さがむしろ引き立っていた。
製作にはなんとMOVIE ONもかんでいて、ラストの撮影は蔵王で行われている。山形の映画事情も、面白くなってきたなあ。