鶴岡まちなかキネマが開館してまもなく一年。入会した5月31日から前後一ヶ月が会員更新期間なのでさっそく行ってまいりました。で、オレも大人だ。例によってプレミアム会費1万円也を支払いましてよ。
なにしろこれから「冷たい熱帯魚」「英国王のスピーチ」などの期待作続々なので投資の意味でも。
地震からこっち、一度も映画館に出かけていなかったので心機一転。最初の映画は「冬の小鳥」。う、女の子が孤児院に入る話か。二日酔いの中年男にはちょっとしんどいかも。
……観てよかった!あぶねーあぶねー見逃すとこだった。
1975年(という時代設定がなぜなのかは見終わって初めてわかる)、父親と楽しそうに食事する娘ジニ。9才の彼女の視点で描かれるため、父親の顔はスクリーンに映らない。布団のなかで眠ったふりをするジニは、父親がそばに来た途端、すがりつくようにして眠る。彼女は父親が大好きなのだ。しかし、父親の背中はなぜか哀しげで、母親の姿はない。
よそ行きのお洋服を買い、好きなケーキまで買ってもらった娘と父がバスで訪れたのはソウル近郊の孤児院。父親は彼女を捨てたのである。一瞬だけうつる父親はなんとあの人!びっくり。
いつか父親が迎えに来てくれると信じるジニは、孤児院になかなかなじめない。しかしけがをした小鳥(親に見捨てられた孤児たちの象徴)を介抱することで……
大ぶりのシャンプー容器、門扉のきしる音、番号をぶら下げて映る写真など、孤児院の描写がとにかく細かい。優しい、足の悪いイェシン姉さん(「グエムル」の彼女だ)の自殺未遂や、あくまで現実的であるがゆえに孤児たちを思いやる気持ちの強さがわかる寮母など、キャラも立ちまくりだ。
どれだけ取材した成果なのかと思ったら、監督のウニー・ルコントの実体験が元になっているのだった。だからこれは本当に1975年に起こった出来事に近い。
仲間が養子として孤児院を出て行くたびに歌われる「蛍の光」が、やけに元気がいいのがむしろ哀しい。ジニも養子としてパリのドゴール空港に降り立つ。その表情に、不安だけがあるのではないことが救い。傑作。主演のキム・セロンはまちがいなく天才。