「おら、そっち持て。頭はこっちな。」
でんでんが演じる熱帯魚商の指示は適確。いかにも手慣れている。しかしその慣れた作業とは、死体の運搬と解体なのだ。
妻を亡くした社本(吹越満……しゃもと、という名字をでんでんが呼ぶと迫力があります)は若い後妻(神楽坂恵)を迎えて静かに暮らしている。
しかし娘は継母と折り合いが悪く、家族みんながフラストレーションをかかえている。後妻がつくる食事は冷凍食品をレンジで解凍するだけ(神楽坂がスーパーで買い物カゴに商品をはたき落とすオープニングは最高)、娘は万引きに走る。この事態に、社本は夫として、父として対峙することを避けていて、そのことで自分を責めてもいる。
そんな生活にスルリと入りこんできたのがでんでん。押しの強い、しかし親切な人間に見えていたが、一転して……
いやもう殺して殺して殺しまくり。そして死体の処理は、映画的技巧など無視してグロい状況をそのまま描写。
「こいつ、子どもの頃にダッチョだって言ってたけど、傷は残ってるもんだなあ」
「ついでに包茎も切ってやっか」
はたしてどこまでが脚本でどこからがアドリブなんだか。
ストーリーは、精神的・宗教的意味合いにおける父親殺し。でも、そんなテーマよりも、殺人を「こんなものは慣れだ」と言い切るでんでんの魅力と怖さが中心。語り口のたどたどしさがむしろ怖い。
「お笑いスター誕生!!」で、微妙な間(ま)で笑いをとっていたあのオッサンが、こんなにすばらしい役者になっていたなんて。社本の妻に関係を迫るあたりのかけひきなど、やるなあ。
あの、埼玉愛犬家連続殺人事件がモデル。あれだけの事件なのにどうして細かいこと忘れてたかなあ……と思ったら直後に阪神大震災があったのでした(ウィキペディアより)。
あ、それからでんでんの奥さんを演じて狂気を見せた黒沢あすかって、気合いの入った女優だ。人生は確かに痛いんだけど、その痛みをいちばん表現していたのは彼女だったかも。
もちろん成人指定。この映画を観た直後に、ユッケやレバ刺しを食べられるとすればたいしたものだ。