「メメント」「インソムニア」「プレステージ」「インセプション」……クリストファー・ノーラン作品には、つめこめるだけアイデアがつめこんであり、しかも考えオチが効いているという特徴がある。
バットマンのシリーズでもそれは同様。
「バットマンビギンズ」はまだしも一般的な娯楽映画の範疇に入っていたけれど、二作目「ダークナイト」でノーランはなにかをつかんだのだろう。主義主張やダークな味わいを犠牲にしなくても観客は喜んでくれると。
むちゃくちゃなヒットは、アメリカにおける娯楽のエリアを確実に広げた。ジョーカーの邪悪な哲学を、バットマンの勝利ですら覆せなかったという展開に多額の製作費をぶちこんだワーナーもえらい。それほど、ノーランを信頼していたということかな。
だから三作目はつらかったはずだ。みずから「ダークナイト」でハードルを思い切り上げてしまったのだし、ヒース・レジャーが死んでしまったのでジョーカーの再登場も無理。さあ、どうする。
おみごとでした。ジョーカーのかわりに、ベインという強烈な悪役を用意。彼が語る革命論が、それなりに魅力的に聞こえるあたり、世界の現状(特に関西方面)とマッチしている。そしてキャットウーマンを演じたアン・ハサウェイがびっくりするほど美しい。あのお姉ちゃん、あんなに背が高かったんですか!
前作の“船上の賭け”の変奏曲のようなストーリーがメイン。くわえて、ある人物の復讐譚と自警団主義の是非など、あいかわらずてんこ盛りの作品。普通なら三本ぐらい大作がつくれるぞ。
原題はThe Dark Knight Rises(暗黒の騎士飛び立つ)。これがまた考えオチになっているのだ。暗黒の騎士とはバットマンだけではなくて……飛び立つとは昇天という意味だけではなくて……
ラストが、なんと「アメイジング・スパイダーマン」とそっくり。画面でピントが合っていない人物の微笑みが……
なんか、またしても娯楽の幅はこの作品によって拡大。すばらしいシリーズ。これを見ないでどうするんすかっ!今すぐ映画館へ!