冷戦が終わり、無邪気なスパイ映画がつくれないご時世だというのに、名作とはいえはるか昔の「暗殺者」(ロバート・ラドラム)を映画化しようとしたのはいったい誰だったんだろう。しかも主役が気のいいお兄ちゃん風のマット・デイモンで。
「ボーン・アイデンティティー」はしかし傑作だった。んもう大傑作だった。第二作「ボーン・スプレマシー」第三作「ボーン・アルティメイタム」もレベルが下がらず、スパイ映画の概念そのものをひっくり返して見せたのだ。
見栄えよりも実質重視のアクション、身の回りにあるなんの変哲もないものを凶器にかえる小細工……おかげで同じJBであるジェームズ・ボンドも、「カジノ・ロワイヤル」以降、やたらにシリアスにならざるをえなかったぐらい。
で、いろんな事情があったらしいけれどもマット・デイモンは続編の出演を断り、仕方なくスピンオフの形で「ボーン・レガシー」完成。主役は「ハートロッカー」のジェレミー・レナー。監督はシリーズの脚本を担当したトニー・ギルロイ(「フィクサー」の人だ!)。期待しちゃうじゃないですか。
オープニングはおみごと。きらめく水面に男が浮かび上がる……前作のラストからつながってるの!?と思わせて、レナーの訓練の一環だったツイスト。うん、いい感じ。
シリーズの美点を継承しているのは確か。サブミッション中心の格闘、消火器や時計のとんでもない使い方、バイクってあんな乗り方もできるんですね(しかもニケツで)と驚かされるチェイス。でもねえ、はずまないんだよなあ。
おそらく、主人公の強さがクスリによるもので、しかも彼の行動の動機がそのクスリを求めて、なのが弱いんだと思う。応援しようという気になかなかならないのね。
冷徹で周到であるべき組織のトップ(エドワード・ノートン)と、本来は主人公よりもはるかに強いはずの暗殺者が間抜けなのもつらい。
レイチェル・ワイズの美貌がうれしいし、ラストもしゃれているので楽しめるのは確か。おまけにわたしはスパイ映画が大好きなので続編には期待している。それまで、前三作を復習しておきましょう。おっと12月には「スカイフォール」封切りかっ。