「おれみたいになるな。三等席の人生だ」
「お父さん、いつもうちで一番いい席にすわってたじゃない!」
原題Trouble With the Curveは、イーストウッド演ずる老スカウトマンがカーブで交通事故を起こしてしまうトラブルを直接には指している。でもそれ以外に、ドラフト候補がはたして変化球が打てるかが勝負であるため「カーブに難あり」の意もあるだろう。加えて
「おれは変われない」
「努力もしてないくせに」
娘に指摘されるように、人生でそろそろ軌道修正をする時期であることも象徴している。
「グラン・トリノ」から4年、俳優としては引退したはずのイーストウッドの復帰作。近年の監督作は、淡彩で描きながら傑作になってしまうパターンが多かったけれど、愛弟子に監督をまかせたこの作品では、思いっきりベタな展開+ベタな頑固ジジイ演技に徹しております。
そうなの、予想外にこれはハートウォーミングなストーリーをもとにした娯楽作でした。どうしてアメリカで客が入らなかったかわからん。
日本よりもはるかにマイナーな高校野球を追いかける伝説のスカウト。パソコンで管理する現代のスカウティングをまっこうから否定するアナログな男でもある。「マネーボール」で有名になったセイバーメトリクスに反感ありあり(笑)。
自分の眼しか信用していないためにスモールタウンを転々と(アメリカの美しさだけでもお腹いっぱいになれます)。しかしその眼がそろそろいけなくなってしまい、心の通わない娘が応援にやってくる……
娘を演じたエイミー・アダムスの「魔法にかけられて」以上のファンタジーともいえるけど、客を満足させずにいられるか、というイーストウッドの意地みたいなものも感じられてうれしかった。彼が「Uhhh」とうなるだけで客は満足するのにね。
「アイス・キューブがデ・ニーロより名優?冗談言うな」
「あいつは歌も歌える」
共演はジャスティン・ティンバーレイクですっ。