愛する夫が不倫の最中に相手を誤って殺してしまい、罪の意識に懊悩しているとしたら、妻であるあなたはどうしますか。
まあ、現代なら当然離婚して自分への被害を最小限にしておくだろう。ところが、昭和四十年代の鎌倉と東京を舞台にしたこの成瀬映画ではそうはならない。
貞淑にして夫の母によく仕え、夫が帰宅すれば自然に後ろに控えて背広をえもんかけ(決してハンガーなどではない)にかけてブラッシング。
「お風呂になさいます?それとも」
と当時の専業主婦お得意のセリフをかまし、子どもがいたずらをすれば
「“お父様”に叱られますよ」
とたしなめ、夫の灰皿に水をはり、ウィスキーを飲むとなればアイスペールに氷を……あ、途中から妄想も入ってきてしまった。
とにかくそんな夢のような(ほんとに、夢にすぎないんでしょうね今では)女性を演じるのが新珠三千代となると話はこんがらがってくる。
実は彼女はあなたがご想像になるような方法で夫(小林桂樹)の悩みを解消することになる。それが、貞淑で夫の母に~な女性にとってごく自然なことのように。つまり、鎌倉の邸宅で楚々とした風情で夫に仕えていた彼女の優先するものとは……怖いです。
弱い、とは究極の強さなのだと男たちに思い知らせる作品。強さを前面に出しているだけ、いまの女性たちは「他人」を隠していないわけだ。ああ幸せだ。ええ、幸せですとも。