その56「64(ロクヨン)」はこちら。
髙村薫の原作(直木賞受賞)は、自身が言うように狭義のミステリではなく、犯罪小説とくくるべき作品なのかもしれない。
あるつらい経験をした少年(マークス)が、そのトラウマのためにM、A、R、K、Sの頭文字をもつ社会的成功者たちに復讐し、次々に破滅に追いこんでいく。そのマークスを追いかける、というより彼らしく真の意味でマークスと対峙するのが合田雄一郎刑事。「マークスの山」は、彼のデビュー作でもある。
当初は「あいだ」なのか「あいた」なのか「ごうだ」なのかともめていた名探偵は、何度も映像化されたこともあってか、「ごうだ」の名が広く周知されることになった。
合田が登場する主な映像作品は、野口五郎が意外な好演を見せたNHK「照柿」(合田は三浦友和)、グリコ森永事件をモデルにしたように見せて、背後に差別問題を描いた日活「レディ・ジョーカー」(合田はなんと徳重聡。やれやれ)などだが、代表作はやはり松竹で崔洋一監督が撮った「マークスの山」だろう。
背広姿なのに白いスニーカーを履くこだわり男である合田を演じたのは中井貴一。マークスは萩原聖人でした。長大な原作をうまく刈り込んであるんだけどいちばん印象に残ったのはマークスの保護者的愛人を演じた名取裕子のヘアヌードでした
で、WOWOW版。合田を演じたのは三浦友和や中井貴一と同様にどこか無色なイメージのある上川隆也。彼をはじめとして、実はミスキャストの嵐。でも、でもでもマークスを演じた高良健吾の素晴らしさがすべてを補ってあまりある!
戸田菜穂に甘える子どもっぽさと、邪気なく殺人をくりかえす残酷さの共存。いま、彼以上にそんな天使(悪魔でもある)をうまく演ずることができる役者は絶対にいないと確言できます。
彼が本当の天使に昇華するラストだけでも一見の価値はあります。さあ、最新作「冷血」を映画化するとしたら、合田は誰が演じてくれるんだろう。
その58「冷血」につづく。