イギリス、ニューカッスルに住むダニエル・ブレイクは大工として生きてきた。しかし心臓発作のために職を失う。頑迷で非効率的なイギリスの福祉、就労支援のシステムの矛盾に翻弄されるダニエルの前に、ふたりの子どもを連れたシングル・マザーが現れる……。
ほとんどフィル・コリンズなルックスのダニエル(デイビー・ジョーンズ)は、街をひたすら歩き続ける。
うさんくさい商売に手を染める隣室の若者たちを叱り、犬のフンの後始末もしない老人を怒鳴りつけ、前例踏襲から踏み出せない役人たちに怒りを爆発させる。
怒ってばかりのようだが、しかし昔の同僚たちや若者たちから本気で心配されているなど、彼の愛すべき人格が伝わる。
貧困から抜け出せないシングル・マザーたちとの交流から、彼の人生がどのようなものだったか、次第に観客に悟らせる脚本がまずすばらしい。
フードセンターで、空腹のために缶詰を開け、そのみじめさに涙するシングル・マザーと、母親やダニエルを愛する子どもたちの演技も自然。
ここには突出したなにかがあるわけではない。でも突出していなくても、このような貧困に自然に陥ってしまう体制へのケン・ローチ監督の怒りと、落ち着いた演出で観客に
「これはあなたの物語でもある」
と納得させる知性の共存に圧倒される。さすが、名監督。さすが、大監督。実はこれまで敬遠していてすみませんでした。
もちろんこのお話は日本においても同様に成立する。生活保護受給者を【数字扱い】して福祉を切り捨てようという政治、行政、そして世間。寛容さを失った日本でも、いやそんな日本だからこそダニエル・ブレイクの誇り高い言葉は胸をうつ。傑作。カンヌ映画祭パルムドール納得。キネマ旬報ベストワン納得。