事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「犬の力」&「ザ・カルテル」 ドン・ウィンズロウ著 角川文庫

2018-01-23 | 本と雑誌

わたしは本を読むのが速いほうだ。そうでもないと毎晩泥酔しているのに年に百数十冊は読めないと思う。むしろ速読は悪癖に近いんじゃないか。その書の、肝心なところを見逃している可能性もあるし。

ところが、昨年末からわたしは四冊しか読んでいない。これまでスルーしていたドン・ウィンズロウの「犬の力(上・下)」、その続篇の「ザ・カルテル(上・下)」に手を出してしまったから。

ウィンズロウといえば、「ストリート・キッズ」(彼の処女作)に始まるニール・ケアリーのシリーズでおなじみ。ヤク中の売春婦の息子として生まれ、路上でスリをしていたニールを、隻腕の探偵が成長させるというストーリーは典型的な教養小説と言えて、上質のミステリーであると同時に読後感が最高。東江一紀の訳も絶好調。

ほかに彼の作品で読んだのは「歓喜の島」「ボビーZの気怠く優雅な人生」「サトリ」(トレヴェニアン名義)などで、いつも満足させてくれると同時に軽快なワイズクラックの連発が楽しかった。あ、サトリは寡黙な主人公でしたけど。

ところが「犬の力」は違う。「このミステリーがすごい!2010年版」でいきなりトップとなったこの作品は、中南米の麻薬密輸業者と捜査官の宿命的な三十年にもおよぶ対決を力技で描いているらしい。続篇の「ザ・カルテル」は、もっと長くなっている(笑)。こりゃあハンパな気持ちでは読めないぞ、と年末に気合いを入れて読み始めたわけ。

お餅をまるめては読み、大晦日の夜はテレビ(ダウンタウンのあれね)も見ないで読み、新年会帰りにまた読み、ついに三週間かけて読了。計2200ページ。つ、疲れたぁ。

予想以上にすごい小説であり、だからモデルとなったメキシコとアメリカの麻薬戦争がいかに陰惨で複雑なのかを知る。ワイズクラックの嵐は相変わらずですけどね。

ウィンズロウの主張ははっきりしている。メキシコの麻薬カルテルをつぶすために数億ドルをかけるくらいなら、中南米の貧困層に生活の糧となる補助を行った方がよほど有効だと。

メキシコとの国境に壁をつくる?バカ言ってんじゃねーよ。メキシコのカルテルの悪辣さをあげつらうより先に、まずは麻薬の圧倒的な消費国にこそ問題がある。つまり、これはメキシコを舞台にしたアメリカのお話だったのだ。圧巻。さあみなさんも気合いを入れて読んでみよう。

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