かなり危うい均衡の上に立った作品だと思う。亡くなってしまった年の離れた若妻を、黄泉の国から連れ帰るお話。死と性はとても近い存在なので、艶めかしい女優と脂ぎった俳優でやられたら目も当てられない。
その点、この映画のキャスティングは満点。
堺雅人と高畑充希という、セックスの香りがまったくしないふたりを主役にすえ、夫婦愛を歌い上げながら新婚のくせにキスもしないのだ。正解だと思います。
設定も考えてある。鎌倉、というジェノサイドのあった土地の妖気を利用し、魔物と人間の共存が無理のない場所を江ノ電が走り、その江ノ電の旧型が黄泉の国へ死者を運ぶ。しかも現代のクルマをまったく登場させず、旧車のオンパレードで時代の空気を消している。堺雅人は作家だけど、いまどきあんな文人スタイルの作家がいるものか(笑)。
でも文句もあるの。
前半のエピソードがとにかく冗長で、つなぎが0.5秒ずつぐらい長いのは「三丁目の夕日」と同様。ベタな盛り上げ方で涙をしぼるのはいいにしても、もうちょっとスマートにできなかったんですか山崎貴監督。
「ジュブナイル」以降、「STAND BY MEドラえもん」まで、そのほとんどを見ている(百田尚樹原作作品はかんべんして)ファンだからこそ、ちょっと言わせてもらいました。
その冗長な前半の伏線を刈り取る、黄泉の国へ向かってからの後半は見違えるよう。「千と千尋の神隠し」の湯屋のような黄泉の光景には、日本人の死生観が反映されている。カオナシが出てこないのが不思議なくらい。
親切な死神の安藤サクラ(彼女だけ「マジすか」とか現代っぽいのが笑える)と、情け深い貧乏神の田中泯がもうけ役。
でもこの映画はやはり堺雅人のものだ。所作もふくめてほんとうに美しいの。娘は
「堺雅人だけ見てても満足。もう一回見るわ」
と意欲満々。お正月にオトナの観客を集めているようなので、興行収入も当初の見込みよりも上回るだろう。続編期待。あ、それからエンドタイトルが始まっても絶対に席を立たないこと。あの茶碗がっ!