「夜の底は柔らかな幻」の続篇。というか正確には前日譚だ。ゴッドファーザーPARTⅡで、マーロン・ブランドの若き日をロバート・デ・ニーロで描いたあの感じ。
前作で登場した人物たちは、すべてわけありだったので、その事情を連作でていねいに描いている。なにしろクリスティの長篇と同じタイトル(そちらも、ウィリアム・ブレイクの詩からの引用だけど)をいただいているので、前作よりもミステリ風味は強い。
考えてみたら恩田陸はタイトルに凝る人で、これまでも「消滅」はアメリカン・ニューシネマ(バニシング・ポイント)だし、「ねじの回転」はヘンリー・ジェイムズ、音楽からは「ライオンハート」「朝日のようにさわやかに」がある。
「蜜蜂と遠雷」の主人公、風間塵はカンザスのダスト・イン・ザ・ウインドでしょ?「夜の底は~」も、なんと久保田早紀の曲からいただいているんですって。
まあそんな小ネタはともかく、テロリスト神山がいかに覚醒したか、豪腕の葛城はどのようにして入国管理官となったのか(リクルートのされ方が笑える)など、前作と続けて読むとなお趣深いかと。それだと、前作のヒロインがほんの少しだけ登場するシーンでゾクッときます。ぜひぜひ。