どうして宮部みゆき作品なのにこれまで手に取らなかったんだろう……わかった。学校裏サイトをめぐるいじめがどうのこうのって設定がきつそうだったからだ。これ、現役のこの業界の人たちならわかってもらえるはずだ。日々現実にSNSや裏サイトでトラブっているのに、小説のなかでまでねえ。
貧困ど真ん中にいる少女が見上げる新宿の4階建てのビル。屋上に据えられたガーゴイルの像が、ほんの少しだけ動くというつかみは最高。その謎に、退職した刑事と大学生が挑む。これ、ミステリとしてかなり読ませます。ところが……そうかそういう展開なのか。
-言葉は消えない。
誰も自分の発信した言葉から逃げることはできない。
宮部みゆきはとても道徳的な人なので、ネット社会の陥穽を“告発”するのではなく、発した言葉は本人に返ってきますよと“助言”している。さすが、たしなみの人です。
「あなたは家を失ったことがない。死にそうなほど飢え乾いたこともない。人間としての尊厳を剥ぎ取られたこともない」
デスノートの設定をうっすらと借りながら、青年がいかに成長していくかの物語にするあたり、おみごとですよね。え、これも「地獄の黙示録」をめざした作品なんですか?