PART13「国盗り物語」はこちら。
74年の「勝海舟」は、まさしく呪われた大河だった。主役の渡哲也が9回目までの収録を終えて病気(肋膜炎)降板。急きょ松方弘樹が代役に立った。
主役が代わるとなれば、役者のアンサンブルが崩れる。渡と松方では、特にかもし出すユーモアの質が違うので現場は混乱しただろう。
混乱はまだ続いた。
当時のNHKは労働組合のチカラが強く、脚本の倉本聰とは合わないことが多かったようで、次第にNHKと倉本の仲は険悪なものとなり、彼も降板。鬱状態となった倉本は、以降NHKと断絶。それどころか恨みつらみをフジ「6羽のかもめ」に叩きつけ、北海道に移住して「北の国から」につながり、大河の真裏で渡哲也を主役に「浮浪雲」をテレ朝で……
松方弘樹も撮影後にNHK批判を強め、意図したのかは不明だけれども、やはり大河の真裏の「天才たけしの元気が出るテレビ」に出演することになる。
でも「無冠の男」のシリーズでお伝えしたように、収録中は連日連夜のパーティ状態で、おまけに妻役の仁科明子に文字どおり手を出したのもこの大河だったんですけどね。
ただ、前にも何かの機会にふれたと思うんだけど、この大河、悪くなかったと思う。咸臨丸の航海を終えた勝への、友人の杉享二(江守徹)のセリフが渋い。
「まあ、福澤とかいうヤツがいろいろ言ってるけどさ」
こういう、偉人伝ぽくないシニカルなやりとりがよかった。
もうひとりの主役である勝の父親、小吉に尾上松緑。坂本龍馬に藤岡弘、小栗上野介に原保美、徳川慶喜に津川雅彦。
女優陣は大原麗子、丘みつ子、大谷直子、久我美子。
佐久間象山を演じた米倉斉加年が鋭い演技を見せて素敵だった。しかしそれ以上に人斬り以蔵を演じた萩原健一が凄みを見せた大河。でもみんな想像したと思う。渡哲也が最後までやっていたらどんなドラマになったろうと。
PART15「元禄太平記」につづく。