どうやら柚木裕子は、70年代の大作映画を換骨奪胎してミステリに仕立て上げる鉱脈を掘り当てたようだ。
まもなく東映系で公開される「孤狼の血」は、「仁義なき戦い」「県警対組織暴力」などの実録ものがベース。読者へのひっかけをひとつ用意し、最後の年表でうならせてくれた。
この「盤上の向日葵」は、タイトルが示すように将棋のお話。
地元作家だけに、舞台が天童に設定してあってうれしい。将棋の駒のほとんどを生産するこの町は、なにしろ駅前の路面に詰め将棋が描かれているほどの将棋の町。
その天童駅に、ふたりの刑事が降り立つ。若手棋士の対局を見るためだ。若い方の刑事は、(新進棋士)奨励会に入ったものの、プロ棋士にはなれなかった過去がある(26才までに四段になれないと退会せざるを得ない)。
年配の刑事は、対局する棋士のひとりを見てこうつぶやく。
「人ひとり殺してもなんでもねぇって面ぁしてやがる」
……孤独で、異様な少年時代をすごした天才と、彼の過去を追う刑事たち。どう考えてもこれは「砂の器」ですかね。松竹バージョンは加藤剛、丹波哲郎、森田健作でしたが、わたしがこのミステリを勝手にキャスティングすれば長谷川博己、吉田剛太郎、岡田将生です。
わたしは将棋はど素人なので、棋譜が彼らの人生を象徴している工夫や、駒そのものの価値はよくわからない。でも真剣師(どう考えても小池重明がモデル)の打ち方が主人公にどう影響したかなど、わからないなりに迫ってくるものはあった。
「聖の青春」「3月のライオン」などの将棋映画が続いているし、藤井聡太六段(この人は14才で四段になっている)人気があるうちに、ぜひ映画化を。天童にロケ隊を!