3時間56分の大長篇。世評高く、映画好きの間ではよくこの作品の名が出るが、わたしは観たことがなかった。あ、タイトルは「クーリンチェ少年殺人事件」と読みます。実際に台湾で起きた事件をもとにしたエドワード・ヤン監督作品。91年製作。
実は評判のわりに、実際に観たことがある人は圧倒的に少ない。なぜなら、初公開のときは日本では大コケ。おまけにコンテンツの権利を持っていた会社が倒産したため、DVD化もされていなかった。
ここで登場したのがなんとマーティン・スコセッシ。彼の会社がデジタルリマスター版を製作。おかげで再公開され、鶴岡まちなかキネマでも上映された。行けなかったけど。
さて、作品情報をほぼ皆無の状況で見始める。4時間もある作品だからきっと退屈するに違いない。酒でも飲みながら……そんなやわな観客を弾き飛ばすような映画だった。
背景は60年代はじめの台北。大陸から渡ってきた外省人たちの屈託。そのいらつきは彼らの子に伝染し、少年たちは抗争をくり広げる。そして、ひとつの殺人が起こり……
ああ、タイトルの殺人はこのことをさしているのかと納得し、はたしてこれからどんな展開になるのかと思ったら……うわあ。
3時間56分間という時間が必要だったのがよくわかる。それはある人物の絶望と、日本とアメリカの影響、そして大陸への思慕と憎悪に揺れる台湾という国を描くために。
光り輝く夏の一日(英題はA Brighter Summer Day)になるはずだったその日が、一転して漆黒に染まる展開を、エドワード・ヤン(59才で病没)は絶妙に描く。特に懐中電灯を利用して、光によって闇を切り裂く映像がすばらしい。退屈なんかまったくしませんでした。大傑作。