事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「光秀の定理」垣根涼介著 角川文庫

2024-01-16 | 本と雑誌

ここに四つの茶碗があります。そのなかのひとつに石をいれて、どれに入っているかを当てる賭博が開陳されます。順序は以下の通り。

1 親が子に茶碗を選ばせる

2 石が入っていない二つの茶碗を除く

3 残った茶碗のうち、最初に選択した茶碗と、もうひとつの茶碗のどちらに石が入っているかを選ばせる

……まず、石が入っている茶碗を最初に当てる確率はもちろん1/4です。しかし二つになった時点で確率は1/2になるので、どちらを選んでも確率は1/2に跳ね上がる、と誰だって思います。ところが、長丁場になるとほぼ確実に親の方が勝つことになり、その勝率は7割を超える。それはなぜか。

……こんな魅力的な謎を中心にすえて、明智光秀の半生が描かれる。もちろんわたしたちは本能寺の変のことを知っているし、その後に光秀がどうなったかも知っている。だから明るいお話になりようがないはずなのに、読後感はとてもさわやか。読んでよかった。

「信長の原理」につづく

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「藝人春秋Diary」水道橋博士著 スモール出版

2024-01-15 | 芸能ネタ

週刊文春に連載された、博士のはんぱじゃない交友を記録した“日記”。しかしなによりも博士自身を語りつくしてもいるわけで、博士色が強く、読むのに覚悟がいる。

というのも、彼はご存じのようにその後に参議院議員となり、3ヶ月で辞職している。彼がたびたび陥る“体調不良”のため。つまりは鬱病である。だからこの大著は、ひとりの鬱病患者の日記ということもできる。

江口寿史のイラスト完全収録。よくぞあの江口が落とさなかったよなあ。

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光る君へ 第2回「めぐりあい」

2024-01-14 | 大河ドラマ

第1回「約束の月」はこちら

吉高由里子登場。

近ごろわたしは芸能人の評伝や自伝を読みまくっています。岸恵子、十朱幸代、深作欣二、水谷豊、水道橋博士、沢田研二……すべて、面白いです。で、きっと吉高由里子がのちに自伝を書くことがあったら、それも絶対に面白いはずだ。

彼女が「蛇にピアス」で蜷川幸雄の演出に賭けたのと、十朱幸代が相米慎二監督による「魚影の群れ」で怖いぐらいの汚れ演技に挑んだのと、きっと女優として同じ心根だったのだと思う。ここが、ジャンプする場所だと。

同じことが男優にも言えると思う。

大河ドラマで、あの藤原道長を演じろとオファーされた柄本佑は逡巡しただろう。彼の演技力がすごいことはみんな知っているけれど、大河ドラマの大看板を背負って立つのである。自分にその華があるのか、とは確実に思ったはずだ。

でもわたしはこの第2回を見て確信した。「青天を衝け」の草彅剛、「どうする家康」の古川琴音、「鎌倉殿の13人」の宮澤エマのように、ガシッと視聴者の心をつかむ華になっている。

で、ドラマ。紫式部は代書屋をやっている。落語ですか(笑)。いろんな人の立場で話を紡ぐことが彼女の糧になっていくことが自然に語られている。うまい。

第1回の視聴率が史上最低であることがあげつらわれている。裏番組が「格付け」であることで運が悪かったとか。そんなの関係ないよね。この時代に視聴率20%をキープしろなんて誰も思っていない。下がらないことが重要なんだと承知しています。次回もちゃんと見ます。

第3回「謎の男」につづく

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「マンション・フォンテーヌ」小路幸也著 祥伝社

2024-01-13 | 本と雑誌

どうして小路幸也を読まなくなってしまったんだろう。あんなに大好きだった東京バンドワゴンシリーズですらお腹いっぱいなのだ。

というのも、あのシリーズの中心には幽霊のおばあちゃんがいるわけじゃないですか。このおばあちゃんがあまりにもいい人すぎて、じゃなくていい幽霊すぎて息が詰まるようになったの。

でもうちの司書はこういうやさしい物語が好きだから、ぜひ!とすすめてくれたので、せっかくなので……面白いじゃないですか(笑)。名物大家と変わった店子たちという設定はどう考えても「めぞん一刻」や「すいか」をいただいているんだけど、わたし、どっちも好きだったし。

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「線は、僕を描く」(2022 東宝)

2024-01-12 | 邦画

砥上裕將(とがみひろまさ……読めないよね普通)の原作はすばらしかった。あれを、横浜流星主演で映画化されていたのに見逃していたとは不覚。水墨画の師匠に三浦友和、その孫に清原果耶、弟子の先輩に江口洋介(好演)と、役者はそろっている。

そして作品としてもすばらしい出来だった。俳優たちはマジで水墨画に取り組んだらしい。ただ、師匠がなぜ水墨画を描き続けてきたのか、というあの原作のキモのエピソードがスルーされていたのはなぜなんだろう。いい話なんだけどなあ。

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「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(2021 TBS)

2024-01-11 | テレビ番組

元日の能登地震は酒田でもえらい騒ぎだったようだ。わたしは午後4時前にすでにできあがっていたので何もできなかったが、職場も避難所になったし、多くの住民がやってきたそうだ。そしてびっくりするくらいのクルマが海側から山の方へ走って行ったとか。

災害が起こるたびに、医療従事者や救命関係の方々の活躍には本当に頭が下がる。その強い使命感を見習わなければ。

で、このテレビドラマを正月に延々と見ていました。清潔で安全な病院で患者を待つだけでなく、医療器具を満載にして現場に突っ込んでいくERカーの活躍を描く。しかし背景には政治家と官僚の暗闘があって……どう考えても「踊る大捜査線」+「コード・ブルー」+「サンダーバード」(音声入力でドアが開くあたりの仕掛けはゾクゾク)なんだけど、それだけではなくて徹底した取材が行われたからか、出動要請の文言までリアル。

そして黒岩勉の脚本がとにかくすばらしいの。さすが「グランメゾン東京」や「キングダム」の人だ。わたしが大河ドラマのプロデューサーだったら、彼のスケジュールをまずチェックする。

MERというのは「モバイル・エージェンシー・ルーム」の略。チーフドクターは喜多見(鈴木亮平)で、彼と対立する官僚にして医者である音羽が賀来賢人。この二人が「踊る大捜査線」における青島と室井に該当する。他に弦巻(中条あやみ)、蔵前(菜々緒)、冬木(小手伸也)など。そうです役名はみんな東京都の地名になっています。冬木が副チーフだと息子に嘘をついているエピソードなど、まんま「王様のレストラン」にありました。

MERを設立した東京都知事が石田ゆり子で、対立する厚生労働大臣が大好きな渡辺真起子。まあ、最初の女性総理をめざすあたりでモデルが誰かはまるわかり。

そして、毎回毎回どうしてこんなに確実に泣かせてくれるのかとあきれるくらい。スペシャル版と劇場版があるんだな。追っかけます。

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「コメンテーター」奥田英朗著 文藝春秋

2024-01-11 | 本と雑誌

精神科医、伊良部のシリーズが17年ぶりに復活。トンデモな発言を繰り返す彼をコメンテーターに採用するテレビ局もいいかげんだけど、伊良部の暴言はしかし、真実をついてもいる。

患者のひとりである学生が酒田の出身で、都会になじめずにいるあたりには「数十年前のおれじゃん!」と感涙。

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今月の訃報2024年1月号 追悼八代亜紀

2024-01-10 | 音楽

八代亜紀 / 雨の慕情

12月号PART3「蓮見清一」篇はこちら

月末まで待っていられない。八代亜紀が死んだのか。みんな「舟唄」を代表曲に選ぶんだろうけれど、わたしは学生時代に「雨の慕情」を聴いて、これすげー曲なんじゃないかと思っていた。

そう言いながらわたしは阿久悠という作詞家がどうにも苦手。“こう聴け”ってのが露骨じゃないですか。

でもラジオから流れる「雨の慕情」には心を揺さぶられた。

えーとこれから先は恥ずかしい話なんだけど、八代亜紀は確か週刊プレイボーイにグラビアで登場したことがあるんだよね。演歌歌手の人がそういうことをする前例はあまりなかったと思うのでびっくりした。

いやそれ以上にびっくりしたのは、女がもんのすごくきれいな身体だったことです。

あー各方面から怒られそうだな。八代亜紀を胸とかで評価しちゃいけない。

篠山紀信篇につづく

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「直木賞をとれなかった名作たち」小谷野敦著 筑摩書房

2024-01-10 | 本と雑誌

人物の好悪をこれほどあからさまにする作家もめずらしい。井上ひさしを蛇蝎のように嫌い、小林信彦のミスをあげつらい、「ドグラ・マグラ」をつまらないとこきおろす。開高健に至っては……いやはや大変です。

さーて今度の直木賞は大好きな万城目学の「八月の御所グラウンド」がとれるのかな。どうも河崎秋子の「ともぐい」に行きそうな予感も。

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「ラストナイト・イン・ソーホー」Last Night In Soho(2021 ユニバーサル)

2024-01-09 | 洋画

監督がエドガー・ライトなのである。あの「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホット・ファズ」そして「ベイビー・ドライバー」の人なのだ。まともな映画であるはずがない(笑)。

それにしたってセンスがバリバリに光った作品でもある。田舎からロンドンに出てきたデザイナー志望の女子学生が、次第に自分の理想とする60年代の女性とシンクロしてしまい……ということで途中からはホラー一直線

60年代が単なる黄金の時代ではなく、年寄りや男性によって女性の生活がゆがめられていた時代であることも描いて見せている。

二人の女性の入れ替わりが、こりゃあみごとなCGだなと思ったら、ものすごくアナログな方法で(カメラの後ろから回り込む!)やっているあたりの心意気がうれしい。

音楽はダスティ・スプリングフィールド、ウォーカー・ブラザース、スジバンなど、ちょっと歌謡曲っぽいところを狙っているあたりもうまい。「女王陛下の007」のボンドガール、ダイアナ・リグの遺作でもある。

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