ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

2022年の自己ベスト(ホタル編)

2022-12-25 20:33:11 | 自己ベスト/風景、昆虫

2022年の自己ベスト(ホタル編)

 年々、一年を短く感じており、2022年もあっという間に終わろうとしているのに、このところ、ずっと天候条件が悪く12月4日以来出掛けることができていない。しかも今年は31日大みそかの夜まで仕事なので、年初に予定している「しぶんぎざ流星群」まで足止めになりそうであるから、本年も、一年の反省と感謝の意味を込めてあくまでも自己満足のベスト作品を選んで締めくくりたいと思う。今年は、例年の昆虫編と自然風景編に、このホタル編を加えて3部門についてまとめてみようと思う。
 今年は、私の「ホタルの研究50年」の年でもあり、生息環境と生態に関してより一層知見を深めることができた年であった。ホタルに捧げた半世紀の集大成を記したいところではあるが、本記事では、この一年で撮影した写真の中から貴重な5点を選び、それらの話とともに、ホタルの保全に関して今感じていることを綴っておきたい。

 昨今では、珍しくはなくなったヒメボタルの写真。私も含めインターネット上で見られる写真のほとんどは、数秒のコマ撮りを数十分から数時間分も重ねた光溢れるものが目立つが、今回の私の一枚は、夏の天の川とともに30秒の一発露光で撮ったものを自己ベストとした。12年間通ったヒメボタルの生息地において、ようやく月も雲もない夜とヒメボタルの乱舞、そして私の休日が重なった結果であった。
 2枚目の「東京のヒメボタル」は、これまで観察と撮影をしてきた、東京都内のヒメボタル生息地の中では一番標高が高い1,200m付近のブナの天然林であり、とても広範囲な生息域での初撮影である。3枚目は、おそらく麓の生息地から上昇気流に乗って上がってきたと思われるゲンジボタルが1頭だけ飛翔しており、偶然にゲンジボタルとヒメボタルが同時に舞う様子も残すことができた。東京都内初の光景である。
 4枚目の「日本の滝100選とゲンジボタル」は、2019年の台風19号によって大きな被害を受け、2020年の夏にはゲンジボタルの発生は数頭だけという状況であったが、3年経過して復活してきたという記録でもある。ゲンジボタルは一年で成虫になるものは僅かで、二年から四年かかって成長する個体が多い。環境変化の大きい河川で暮らすための生存戦略の1つである。大規模かつ環境を激変させる護岸工事や、毎年、災害級の被害が続けば絶滅もあり得るが、そうでなければ数年をかけて必ず復活するのである。だだし、近年の異常気象による豪雨は、特に西日本のゲンジボタル生息地を壊滅状態へと変えてしまっている。地球規模の温暖化が原因であるならば、地域での保全対策も通用しないのが悲しい現実である。
 最後は、初訪問の石垣島におけるヤエヤマヒメボタルを選んだ。一晩30分だけというチャンスであり、成虫をマクロレンズで撮ることはできなかったが、熱帯のジャングルという生息環境、これまで見たこともない発光の仕方、そして発生期間の長さや生息地域の広大さなど、ヤエヤマヒメボタルの未知なる生態に感動した。

 今年は3年ぶりに日本各地でホタル祭りが復活した。日本ホタルの会でも、オンラインの観察会から対面のヒメボタル観察会を行ったが、ホタル祭りや観察会では、相も変わらず「人為的光害」が気になる。
 訪れるすべての人々は「ホタルの光」を見に来るわけだが、打ち上げ花火やイルミネーションを見る時と同じ感覚で来ていると思わざるを得ない。ホタルは、発光によって雌雄がコミュニケーションを図っており、相手の光が見えなければ交配ができない。月明かりでさえ、それを阻害していまうのだが、人々はヘッドライトを付けた車で生息地までやってくる。車を降りれば懐中電灯を照らす。写真を撮ろうとスマートフォンの明かりを向ける。これら「人為的光害」で繁殖ができなくなるのである。
 わずかな行為と思うかもしれないが、ホタルが交尾できる機会は、1日で1時間ほどしかない。ホタルは発生する期間は長くて3週間くらいあるが、メスはオスよりも1週間ほど遅れて発生してくる。その間に、月が照っていたり、気温が低かったり風が強い夜は、オスとメスの出会いの確率がかなり低くなる。多くのオスが発光しながら飛び回り、下草で発光するメスを見つけて交尾に至ることができる日数は、決して多くはない。そのわずかなチャンスを「人為的光害」で邪魔をしていることを知ってほしいのである。ホタル舞う風景は、命を繋ぐ光景であり、人工的な打ち上げ花火やイルミネーションの光景とは違うのである。
 今年は、高知県いの町へヒメボタルの保全指導と観察会で2回訪れた。自治体や地域住民の方々の意識も高く、素晴らしい自然環境とホタルの存続に期待できるが、全国に目を向ければ、ホタル保存会の高齢化が進んで保全活動が停滞し、環境の荒廃によりホタルが減少してしてしまっている地区も多い。若い人達への後継が急務であろうが、現実は難しい状況であり、今後の大きな課題である。
 本年最初に綴った「ホタル研究50年」の思いは、今もこれからも変わらない。来年のホタルが舞う時期には、多くの人々が正しい知識を持って観察し観賞して頂けるよう啓蒙活動をするとともに、生態と生息環境の調査研究を行いながら、日本各地に出向き保全指導の要望に応えていきたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ヒメボタルと天の川の写真
ヒメボタルと天の川
東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
ゲンジボタルとヒメボタルの写真
東京都内でゲンジボタルとヒメボタルが同時に舞う
滝とゲンジボタルの写真
日本の滝100選とゲンジボタル
ヤエヤマヒメボタルの写真
ヤエヤマヒメボタル

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