高見順の『昭和文学盛衰記』の第八章 全女性進出行進曲の林芙美子の項に書いてある;
そうしてこの林芙美子の出世作としてされる『放浪記』が『女人藝術』に発表されたときは、「好評悪評さまざまで、華々しい左翼の人達からはルンペンとして一笑されて」しまった、林芙美子は『文学的自叙伝』で書いている。『放浪記』が真に出世作らしい拍手で拍手で迎えられたのは、昭和五年に『新鋭文学叢書』の一冊として改造社から出版されからのことで、これは今で言うベスト・セラーになった。(私の持っているその小型の、定価三十銭の本の奥付を見ると、昭和五年七月三日初版発行が九月十日ですでに四十版となっている。)
林芙美子の最初の単行本は上記のごとく改造社の『新鋭文学叢書』の一冊としての『放浪記』である。『新鋭文学叢書』とはどういうものか?は以前に書いた(愚記事:改造社、新鋭文学叢書; 林芙美子 『放浪記』はその一巻)。シリーズ全巻装丁が同じなのだ。こういうデザイン;
カンディンスキーのコンポジション(1920年代)[1]の余波を受けたようなデザインだ。なお、この『隕石の寝床』といういか@さま風のイメージ喚起的表題の小説を書いた中村正常は、中村メイ子の父親だと最近しった。現在この『隕石の寝床』の古書価格は4000円以上(日本の古本屋 在庫検索)。
[1]
コンポジションⅧ
話を林芙美子の『放浪記』に戻して、現在、ネット通販の古書店でこの改造社、『新鋭文学叢書』の一冊としての『放浪記』は売りにでていない模様である。もっとも、『新鋭文学叢書』初版全揃い30万円というのはあった。
ところが、オークションサイトに「林芙美子、『放浪記』 初版、1000円」というのを見つけた。変だ、怪しいと思ったが、入札。1000円で落札した。来た。開けた。表紙は確かにあこがれの昭和レトロのモダンデザイン。でも、異常に真新しい。一度も読まれていない雰囲気。
奥付を見ると、昭和五年七月三日初版発行、定価三十銭。高見順の記述と合致する。
でも、この時点でからくりがわかった。
印紙と押印が変だ。印紙が貼ってない。
これは、レプリカなのだ。
本物の印紙と押印例を、林芙美子、『戦線』(朝日新聞社刊)で示す。
名著復刻全集 近代文学館(google画像)というのが1969年に出て、その1冊なのだ。でも、原本のデッドコピー=写真コピーらしく、絵と字は当時ママを伝えている。 広告も復元されている;