オウムを生み出した土壌は何であったのか。佐伯啓思は『現代民主主義の病理 戦後日本をどう見るか』において、それを的確に分析している。佐伯が重視するのはポストモダンの影響である▼「八〇年代におけるオウムの成長は、明らかに、オカルト、超能力、予言、それに終末論といったブームと無関係ではない。そこにヨガ、チベット密教が加わり、さらにニュー・サイエンスやポストモダンと称された一部の学者やジャーナリズムによって煽り立てられたムーブメントが生じたのであった」▼あらゆる権威を否定するのがポストモダンであり、「脱構築」という言葉がわけもなく使われ、パロディとおふざけの文化が主流になった。民主主義の根本が揺らぐことになったと佐伯は指摘している。「オウムの強制捜査に警察が乗り出し、マスコミが上九一色村でオウム一色になっているとき、東京都、大阪府でお笑い系タレント候補が知事になるという珍事が生じた」からである。そうした風潮を後押したのがテレビであった。ネットで当時の番組が次々とアップされているが、オウムの麻原彰晃を登場させ、宣伝役を買って出たのである。ポストモダンの相対主義によって、面白ければ何でもありであった▼佐伯が力説した「われわれはメディアから受け取るものをいったんは疑えということだ」という言葉は、未だに色あせてはいない。オウムは特異な集団ではなかった。ポストモダンとテレビが世に送り出した怪物だったのである。
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