創作日記&作品集

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「わたしなりの枕草子」#340

2012-03-09 08:11:04 | 読書
【本文】
二百八十三段
 十二月(じふにぐわち)廿(にじふ)四(よつ)日(か)
 十二月(じふにぐわち)廿(にじふ)四(よつ)日(か)、宮の御仏(みぶつ)名(みやう)の、半(はん)夜(や)の導師聞きて出づる人は、夜中ばかりも過ぎにけむかし。
 日(ひ)来(ごろ)降りつる雪の、今日はやみて、風などいたう吹きつれば、垂氷(たるひ)いみじうしたり。地(つち)などこそむらむら白き所がちなれ、屋の上はただおしなべて白きに、あやしき賤(しづ)の屋も雪にみな面隠(おもがく)しして、有明の月のくまなきに、いみじうをかし。銀(しろがね)などを葺(ふ)きたるやうなるに、「水晶の滝」など言はましやうにて、長く、短く、ことさらにかけわたしたると見えて、言ふにもあまりてめでたきに、下簾もかけぬ車の、簾をいと高うあげたれば、奥までさし入りたる月に、薄色・白き・紅梅など、七つ八つばかり着たるうへに、濃き衣(きぬ)のいとあざやかなる艶(つや)など月にはえて、をかしう見ゆるかたはらに、葡萄(えび)染(ぞめ)の固紋(かたもん)の指貫、白き衣どもあまた、山吹・紅(くれな)など着こぼして、直衣(のうし)のいと白き、紐を解きたれば、脱ぎ垂れられて、いみじうこぼれ出でたり。指貫の片つ方は軾(とじきみ)のもとに踏み出だしたるなど、道に人会ひたらば、「をかし」と見つべし。月の影のはしたなさに、後ろざまにすべり入るを、常に引きよせ、あらはになされて、詫(わ)ぶるもをかし。
「凛(りん)々(りん)として氷鋪(し)けり」
といふ言を、返す返す誦(ず)じておはするは、いみじうをかしうて、夜(よ)一夜(ひとよ)も歩(あり)かまほしきに、行く所の近うなるも、口惜し。

【読書ノート】
 宮の=中宮御所での。半(はん)夜(や)=御仏(みぶつ)名(みやう)は初・半・後にわかれ、それぞれ導師を異にする。
 日(ひ)来(ごろ)=何日も。垂氷(たるひ)=軒のつらら。賤(しづ)の屋=身分の低い者の家。「水晶の滝」=(つららは)。ことさらに=わざわざ。言ふにもあまりてめでたき=言い尽くせないくらい素晴らしい。
 名文ですね。次ぎに幻想的な文章が続きます。
 脱ぎ垂れられて=肩脱ぎになって。いみじうこぼれ出でたり=(下の衣が)。軾(とじきみ)=車の前に横に渡したいた。月の影の=月の明るさ。はしたなさ=みっともなくて恥ずかしい。詫(わ)ぶる=辛いと思う。いみじうをかしうて~=客観的な描写から体験としての作者の主観的な描写に切り替わります。歩(あり)かまほしき=牛車を走らせていたい。