創作日記&作品集

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「わたしなりの枕草子」#353

2012-03-22 08:13:29 | 読書
【本文】
二百九十五段
 男は、女親(めおや)亡くなりて
 男は 女親(めおや)亡くなりて、男親(をおや)の一人ある、いみじう思へど、心わづらはしき北の方出で来て後は、内にも入れ立てず、装束などは、乳母(めのと)、また故上(こうへ)の御人どもなどしてせさせす。
 西(にし)・東(ひむがし)の対のほどに、客人居(まらうどゐ)など、をかし。屏風・障子(さうじ)の絵も、見どころありて住まひたる。
 殿上のまじらひのほど、「口惜しからず」人々も思ひ、主上(うへ)も御気色(みけしき)よくて、常に召して、御遊びなどの仇(かたき)におぼしめしたるに、なほ、常にもの歎かしく、世のなか心に合はぬ心地して、すきずきしき心ぞ、かたはなるまであべき。
 上達部の、またなきさまにてもかしづかれたる妹(いもうと)一人あるばかりにぞ、思ふことうち語らひ、慰(なぐさ)めどころなりける。

【読書ノート】
 皇后定子崩御後の敦康(あつやす)親王の境遇を諷した随想かと思われる。→萩谷朴校注。他の文献、枕草子・小学館、石田穣治訳注、桃尻語訳「枕草子」にはそのような記載はありません。だが……。「主上(うへ)も……」の記載はそうとも取れるような気がします。すると、「心わづらはしき北の方」は彰子……。桃尻語訳の「註」に「この話に具体的なモデルがあるかとかなんとかは、もうこれ以上言えないけどねー」と、仄めかしています。
 住まひたる=別居している。まじらひ=宮仕え。御気色(みけしき)よく=お気にめされて。仇(かたき)=相手。すきずきしき心=「色好み」とするか、「風雅を愛でる心」→枕草子・小学館。とするか。下に、「かたはなるまで」=異常なまで、とあるのでまったく違ってきます。
 かしづかれ=大事にされている。
 敦康(あつやす)親王をネットで調べました。「風雅を愛でる心」の人であったのは間違いないと思います。后腹の第1皇子が立太子できなかったのは異例のことだと。享年二十。