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二百八十七段
衛門尉(ゑもんのぞう)なりける者の
衛門尉(ゑもんのぞう)なりける者の、似而非(えせ)なる男親を持たりて、「人の見るに面伏(おもてぶ)せなり」と、苦しう思ひけるが、「伊予の国よりのぼる」とて、浪に落とし入れけるを、
「人の心ばかり、あさましかりけることなし」と、あさましがるほどに、七月十五日、「盆たてまつる」とて、急ぐを見給ひて、道命阿闍梨(だうめいあざり)、
わたつ海に親おし入れてこの主の
盆する見るぞあはれなりける
と、よみ給ひけむこそをかしけれ。
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衛門尉(ゑもんのぞう)なりける者=不詳。似而非(えせ)なる=身分の卑しい。浪に落とし入れ=(親を)海に落とす。
七月十五日=盂蘭盆供養の日。急ぐ=準備する。
わたつ海=海の中に。おし入れて=「て」は逆説。ておきながら。