私の俳号は、「歩智」。歩智は、四代続く我が家の愛犬「ポチ」の名前から採り、漢字にしただけ。長崎出島で、ポルトガル人の飼っていた犬が黒点(?)のある犬だったそうで、その犬の名前は、プッチ=点。それを聞いた日本人達が、「あれはポチ」といい、犬の名前は “ポチ ” “ポチ ”と広まったそうだ。私はその時代に生きていたわけではないから、真偽の程は定かではない。
《歩く智慧》とは、なかなか良い名と思うのだが、《知恵出でて大偽あり》老子。人間、素朴であった時代には平和であったのだろうが、人々の知恵が進み、世の中が乱れているのが今の世。
現在に生き、不遜にも《歩く智慧》という俳号は、考えものでは?・・・・・まあいいか、私を見て誰一人《歩く智慧》とは思わないわけだから。
寒の月こうこうと雲寄せ付けず
ふわふわのうぶ毛残して巣立ちけり
老いし身に重き独りの更衣
杉木立箱根全山ひえびえと
歳時記の栞は今朝の柿落葉
日の丸に折り跡ありてお正月
旧友の握手握手や花吹雪
黄木香石工は石を仏にす
曼珠沙華ここは江戸城半蔵門
大寒や恵比寿の顔の凛として
月は満ち花いまだなし西行忌
水馬背中叩けば棒となり
貼り紙に蛍一匹七百円
なめくじの跡キラキラと父母の墓
西国に手を振り向かう秋の朝
火の機嫌とりつつ桜落葉焚く
犬もまた家族となりて納札
冷酒や熱海五郎座幕あける
墨文字の滲む貼り紙夏祓い
笛太鼓神を寝かせぬ祭の夜
無花果を裂けば火花の散る如し
枯芝を雪と見まごう寒の月
花冷えやベンチの下の伝とポチ
ジーンズの裾をくるくる折つて初夏
太陽に向かぬ向日葵そだちすぎ
(岩戸句会第五句集「何」より 坂井歩智)
やまつつじ(山躑躅)