一韶の俳句ブログ

俳句を詠うのは自然・私・家族・夢や希望・社会など。読む時はどんな解釈が浮かぶか読み手の経験や生活によって様々

1948   移ろいのぽつり秋蝉誰に鳴く   美部

2018年05月24日 | 岩戸句会 第五句集「何」

 三年間の期限付き。2017年夏、ここ熱海伊豆山に単身移住した。東京のマンションが建て替えになったための仮住まい。縁もゆかりもない、顔見知りの犬さえいない、まさに源頼朝、幽閉状態。バルコニーからぽつり海を眺める毎日が続いた。

 季節が秋へと移ろい始めた頃、買い物の帰り道。いつも気になっていた、岩戸窯と書かれた案内板。覗いてみようかなぁ。が、普段はかなりの人見知り。第一印象も自慢ではないが良くはない。しかしその日は何故か、案内板の示す坂を上がっていた。誰もいない、帰ろう、そう思った瞬間、不審者を見つけたのか、怪訝そうに、こちらを睨みながら、窯から降りてくる初老人・ジャン・レノ。手には鎌を持っていた、と思う、多分。ど、どうする俺。

 そして・・・。一時間後には、岩戸窯のバルコニーでビールを飲んでいた。誘われるがままに、テニスや興味もなかった俳句の会にまで参加させて頂いた。

 そこで初めて詠んだのが冒頭の句。それから、沢山の諸先輩方と知り合い、ご懇意にして頂いた。俳句との出会いは、今まで気にも留めなかった雑草や野鳥、月のない闇夜までも、新鮮で楽しい発見を運んでくる。

もう、ぽつり鳴く蝉はいない。

 

ポテチだよ君トーストねと落葉踏む

値段知り急に輝く新秋刀魚

ジオラマの街に灯る秋の暖

傷ぐちに降り染みるかな阿蘇の雪

目を閉じて顎あげた頬にさくら

 

空っぽの頭の上に凧ゆれる

振り向けば君の瞳に初日の出

おでん鍋海山里が肩を組む

君見えぬ桜ことしも咲きました

くつ眺めオール漕ぐ花筏乱れ

 

指先に雫の飾り雨蛙

ケロヨンの頭押さえて丈比べ

夏の果主人のいない水鉄砲

口にも降臨島とうがらし台風

秋の海流木くわえ犬走る

 

虎落笛袖を伸してバイク人

六ぶて六ぶて六ぶててぶくろ

膝さすり靴を磨いて春を待つ

手を振り手を振り木枯し帰る

桜道ドナドナ歌う母移す

 

寒桜目白とカメラが目白押し

夏の果ベンチで並ぶ蝉骸

春告げん独裁者たちへの方法華経

十五夜と気付くとちゃっかり顔をだし

猪くらい友のいびき荒れ狂う

(岩戸句会第五句集「何」より 清野美部)

 

スイバ(酸い葉)

コメント
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