三年間の期限付き。2017年夏、ここ熱海伊豆山に単身移住した。東京のマンションが建て替えになったための仮住まい。縁もゆかりもない、顔見知りの犬さえいない、まさに源頼朝、幽閉状態。バルコニーからぽつり海を眺める毎日が続いた。
季節が秋へと移ろい始めた頃、買い物の帰り道。いつも気になっていた、岩戸窯と書かれた案内板。覗いてみようかなぁ。が、普段はかなりの人見知り。第一印象も自慢ではないが良くはない。しかしその日は何故か、案内板の示す坂を上がっていた。誰もいない、帰ろう、そう思った瞬間、不審者を見つけたのか、怪訝そうに、こちらを睨みながら、窯から降りてくる初老人・ジャン・レノ。手には鎌を持っていた、と思う、多分。ど、どうする俺。
そして・・・。一時間後には、岩戸窯のバルコニーでビールを飲んでいた。誘われるがままに、テニスや興味もなかった俳句の会にまで参加させて頂いた。
そこで初めて詠んだのが冒頭の句。それから、沢山の諸先輩方と知り合い、ご懇意にして頂いた。俳句との出会いは、今まで気にも留めなかった雑草や野鳥、月のない闇夜までも、新鮮で楽しい発見を運んでくる。
もう、ぽつり鳴く蝉はいない。
ポテチだよ君トーストねと落葉踏む
値段知り急に輝く新秋刀魚
ジオラマの街に灯る秋の暖
傷ぐちに降り染みるかな阿蘇の雪
目を閉じて顎あげた頬にさくら
空っぽの頭の上に凧ゆれる
振り向けば君の瞳に初日の出
おでん鍋海山里が肩を組む
君見えぬ桜ことしも咲きました
くつ眺めオール漕ぐ花筏乱れ
指先に雫の飾り雨蛙
ケロヨンの頭押さえて丈比べ
夏の果主人のいない水鉄砲
口にも降臨島とうがらし台風
秋の海流木くわえ犬走る
虎落笛袖を伸してバイク人
六ぶて六ぶて六ぶててぶくろ
膝さすり靴を磨いて春を待つ
手を振り手を振り木枯し帰る
桜道ドナドナ歌う母移す
寒桜目白とカメラが目白押し
夏の果ベンチで並ぶ蝉骸
春告げん独裁者たちへの方法華経
十五夜と気付くとちゃっかり顔をだし
猪くらい友のいびき荒れ狂う
(岩戸句会第五句集「何」より 清野美部)
スイバ(酸い葉)