ご存知の人も多いだろうが、昭和歌謡界最大のヒットメーカーとして知られる、作詞家の阿久悠氏が昨日亡くなった。享年70歳。尿管癌だそうだ。
また一人、昭和を象徴する人が亡くなった。謹んで冥福をお祈り致します。
僕が歌謡曲に興味を持ち始めた1970年代半ば、というか昭和40年代終わり頃には、阿久悠は既にヒットメーカーとしての地位を確立していた。好むと好まざるとに関わらず、彼の曲(歌詞)は自然と耳に入る環境だったのだ。でも、子供心にも、“阿久悠ならでは”みたいな歌詞は少なかったように感じていた。「えっ、これも阿久悠なの?」というのは、たくさんあったけど。
阿久悠で思い出す話があって、中学の頃の友人が、阿久悠が書いた「作詞入門」みたいな本を持ってて、借りて読んだ事がある。作詞法をレクチャーした本というより、詞を書く時の自身の経験や思い出を書いたような感じで、内容はほとんど忘れているが、その中で強烈に覚えているのがある。当時の僕は知らなかったけど、阿久悠のヒット曲に「白い蝶のサンバ」というのがあり、その出だしの歌詞“あなたに抱かれて私は蝶になる”という部分が、発売当時かなり話題になった、というか物議を醸したらしい。阿久悠本人によると、「意味が分からない」という声が圧倒的だったそうな。「蝶になる、ってどういう事よ。説明してよ」と、会う人ごとに言われたとか。ただ、そんな周囲の反応を見て、阿久悠は「この曲はヒットする」と確信したそうな。で、その通り、大ヒットとなった。
阿久悠曰く、きちんと情景が描写された歌詞もいいが、抽象的で意味不明な歌詞だと、何が言いたいのか、と聴く人の興味をそそるのだそうだ。で、その歌詞について考えているうちに、曲が頭から離れなくなり、結局買ってしまうのだとか。これだけだと、「ふ~ん、なるほどねぇ~」で済んでしまうのだが、僕が凄いと思ったのは、阿久悠がこの「あなたに抱かれて私は蝶になる」という歌詞を狙って書いた、と言っていた事だった。ヒットするという確信のもとに、いや、ヒットさせるために書いたのだ、と本人が断言してるのだ。ヒットした後だから、何でも言えるよ、とは思うけど、この人は本気だったような気がする。「阿久悠って、プロ(職人)なんだ」と、僕は強烈に感じたのだ。
そう、彼の作品はいずれも「プロ(職人)」の作品なのだ。歌い手のイメージを損なう事なく、大衆にアピールする歌詞を書いてヒットさせる。正しくプロの仕事。彼の作品はどれも、ひたすらそんな“プロ意識”に貫かれていた。個人的な思いや感情、独りよがりな技巧等は一切感じられない。阿久悠は“表現者”ではなく、“プロの作詞家”に徹していた。彼のすごさはそこにある。
ただ、そんな“プロ意識”が強すぎて、僕は阿久悠の歌詞に感情移入する事はなかった。好きな曲はあるけど、歌詞が好きかというと、ちょっと違うような気がしていた。「いい歌詞だなぁ」と思う事もあったけど、冷めていたような気がするのだ。分かりますか、この感じ(笑)
とはいえ、今にして思うと、実に素晴らしい歌詞、と絶賛したくなるのもある。何故か演歌系だったりするのだが(笑)、「津軽海峡冬景色」とか「北の宿から」なんて、本当に素晴らしい。正にプロの仕事(やや論旨が変わってるけど、気にしないように)。
昭和のヒットメーカーとしてのなんて欲しいままにした阿久悠であるが、1980年代から徐々に名前を見かける事が少なくなっていった。本人が小説を書き始めた、というのもあるだろうが、音楽に関しては購買層が低年齢化し、底辺が拡大した事により、完璧なプロの仕事より、素人でも自身で表現する事をもって良しとする風潮になっていたのが、大きな理由だろう。アマチュアリズムにリアリティを求める時代になったのだ。それは決して悪い事ではない、しかし、現状を見ていると、“プロの仕事”も随分変わったもんだ、と皮肉を込めて呟くしかない。
阿久悠・・・単に作詞をする事を生業としているという意味だけでない、本当の“プロの作詞家”だった。今、こういう仕事をする人が、一体何人いるのだろうか?
なにはともあれ(←オーナーさん風)、昭和の歌謡界をリードした素晴らしい方でした。
阿久悠氏のご冥福を謹んでお祈りします。
>高校のとき、国語の先生が「北の宿から」の歌詞を絶賛していました
僕も、当時は演歌くさいというか(演歌なんですけど^^;)、陰気な感じがしてましたけど、人に尽くす云々というか、凄く情景が浮かんでくる歌詞だと思います。身も心も寒々とした感じが伝わってくる、というか。「津軽海峡冬景色」も同様なんですが。
>昭和の歌謡界をリードした素晴らしい方でした。
全くその通りと思います。ある意味、偉大な方でした。詞を書く人、という面では、決して好きではありませんでしたが(苦笑)
その ほとんどが、歌詞を見ずに口ずさむ事が出来ます。
現在のことは、すぐ忘れるのに、昔のことは覚えてるんだな~。(笑)
でも、それだけじゃないんですよね。
「蝶になる・・」みたいに意味よりもインパクトの歌詞もあるけど、情景が浮かんでくる、ストーリーがあると。
子供の頃は、意味も分からず覚えたピンク・レディの歌も、 実は恋の歌だったのね。。。
今朝は、ジュリ~の「勝手にしやがれ」を口ずさみながらの出勤でした。
「悪友=阿久悠」の話をしていた
矢先の訃報でした。
妻と、「阿久悠」っていえば、“やっぱ
「山本リンダ」と「ピンクレディ」だよな”
って話してたら、朝日新聞の記事に
同様の意見が載ってて、苦笑しました。
次回、「し」が来たら密かに
「白い蝶のサンバ」を、マジに
投入しようと思ってましたので
ギクリとしました。(笑)
新聞やテレビで阿久悠さんの作品を紹介していますが、たいてい、知ってる歌ばかりで、口ずさめるのが、すごいなぁと思いました。
もちろん、この場合の「すごい」は、私でなくて、阿久悠さんの詩です。
よく流行っていたせいもあるんでしょうけど、耳にしているうちに、頭にすりこまれてしまう、そんなキャッチーな詩の魅力が有りますね。
「北の宿から」は、「辛気臭い女性やなぁ」と思いました。
♪さよぉなら、さよなら~、元気でいてね~♪と「好きになった人」を歌っていた都はるみさんが、こんな人になっちゃって~っと思ったことを覚えています。
意外性が人の注目を引いたんでしょうか。
都はるみさんにとっては、新境地を開拓したのでしょう。
阿久悠さんが、当代きっての歌姫である、百恵ちゃんに詩を書いてないのが、不思議だと、テレビで言ってました。
演歌ばかりではないのですが、自分の印象としては、津軽海峡冬景色とか、舟歌が印象的ですね。
その後の歌謡界はサザンの桑田氏や、尾崎豊氏のような「素人っぽい」「字余りが多い」歌詞の曲に人気が出てきたのと、歌詞よりもメロディや、ノリを重視する傾向が強くなってきたように思います。
私もあまり歌詞を重視しないタイプですが、年齢を重ねるにつれて、阿久悠さんの歌詞の深みがわかるようになった気がします。
>その ほとんどが、歌詞を見ずに口ずさむ事が出来ます
昔の記憶ほど鮮明、というのもあると思いますが、それだけ流行っていた、浸透していた、という事ですよね。凄いことです。
>情景が浮かんでくる、ストーリーがあると。
その方が覚えやすいですよね。近頃の歌は、表現こそ違えど内容は同じ、というのばかりで、区別がつきません^^;
>ジュリ~の「勝手にしやがれ」を口ずさみながらの出勤でした
出勤のBGMっぽくないですけどね(笑)
♪喜楽院さん
>「悪友=阿久悠」の話をしていた矢先の訃報でした
なんというタイミング...でも、あの時は意味分かってませんでした^^;
>「白い蝶のサンバ」を、マジに投入しようと思ってましたので
入れてみてはどうでしょう? 案外と(以下自粛)
♪那由他さん
>耳にしているうちに、頭にすりこまれてしまう、そんなキャッチーな詩の魅力が有りますね
それこそが流行歌ですよね。狙って書いてた、なんて本当に凄いです。
>都はるみさんにとっては、新境地を開拓したのでしょう
初めて都はるみの「こぶし」が入らない歌、として当時話題だった記憶があります。個人的には、都はるみの「こぶし」は好きでなかったので、入らない方が良かったですけど(笑)
>百恵ちゃんに詩を書いてないのが、不思議だと、テレビで言ってました。
山口百恵の場合、既製のアイドルのイメージをぶち破る形で登場したので、あえて大御所の作品は歌わなかったのでしょう。それは正解だったと思います。でも、彼女がずっと歌手活動を続けていたら、いつかは阿久悠の作品を歌ったでしょう。なぜなら、素人が幅をきかす世界に於いて、二人とも「プロ」だったと思うからです。
♪にゅーめんさん
>演歌ばかりではないのですが、自分の印象としては、津軽海峡冬景色とか、舟歌が印象的ですね
僕も、阿久悠作品はアイドル歌手のものより演歌の方がいいと思います。
>その後の歌謡界はサザンの桑田氏や、尾崎豊氏のような「素人っぽい」「字余りが多い」歌詞の曲に人気が出てきたのと、歌詞よりもメロディや、ノリを重視する傾向が強くなってきたように思います
その通りと思います。80年代以降、流行歌そのものが変わってしまいました。
>年齢を重ねるにつれて、阿久悠さんの歌詞の深みがわかるようになった気がします
深みというか、凄さを実感します。同じ事ばっか言ってますけど(笑)
知ってる、知ってる!
歌詞は情景が浮かんで、メロディーに無理なく載っているものが好きです。
私、今の歌詞についていけません(~_~;)
一曲に歌詞の量も多い。
母音を伸ばしてたっぷり歌ってられない歌手が増えたからだと思いますが。
そして行動を説明していて心情を描いてないのです。
「そばにいるよ~。」とか「ずっと見ているよ~。」とか、「一緒に行ったよね~。」等など。
聴いていて登場人物や風景の映像が浮かばない。
でもまた昔のような歌詞が流行る時代が廻ってくるかもネ。(^^♪
>「あなたに抱かれて私は蝶になる~♪」
>知ってる、知ってる!
昔からご存知だったのですか? 僕は当時全く知りませんでした^^;
>歌詞は情景が浮かんで、メロディーに無理なく載っているものが好きです
同感です。歌詞とメロディーが完璧なまでに一致している曲って、意外と少ないですけどね^^; 阿久悠作品ではないですが、チューリップの「心の旅」数少ない一曲と思います。
>今の歌詞についていけません
KIKUKOさんは歌う人ですから、余計にそう感じるのでしょうね。これも同感です。↑にも書きましたが、表現は違うけど、結局同じ内容、という歌詞が多過ぎますね。
>でもまた昔のような歌詞が流行る時代が廻ってくるかもネ
そうなってくれるといいな、と思います。
新聞・テレビから離れていたので今まで知りませんでした。
阿久悠といえば僕の中では阿久×戸倉→ピンクレディでしたね。
のちに活躍する松本隆の詩はユーミンに近い緻密なものがあり、物語に合わせていくらでも長くなったりもします。
くらべて阿久悠は3分に全てをそそいだシンプルなものが多く、覚えやすいので一字一句残さず多くの人の記憶に今でも残っています。この手法が衰退した時点で歌謡曲の歴史が終わったのではないでしょうか?
阿久悠さん、思い出をありがとうございます。ご冥福をお祈りします。