「頑張ってみます。なあに兄さんが入ったところぐらい、僕行けますよ。」
義弟の返答に、彼は大きく出たねと笑い。
「そうか、僕の大学はそんなものか。」
と苦笑すると、
「若し僕の大学に入れなかったり、僕より格下の大学に行くような事があったら、その時はもう家には来ないでくれ。」
「又、僕の父は君の本当の父じゃないんだから、馴れ馴れしくお父さんと呼ばないでくれ。僕にすると不愉快だからね。」
そうきつく義弟に言うと、父は横を向いて黙ってしまいました。
「分かりました。義兄さん。」
義弟も思う所があるのかぽつりとそれだけ言うと、横を向いた義兄からすーっと目を逸らすと身を翻し、
サッサと廊下を歩いて義兄から離れて行きました。そして階段の所迄来ると、階下に姉の気配を確かめて、
そこに彼女が不在だと判断すると、彼は階段を一気に駆け下りて行ってしまいました。
『僕の姪か。』1人廊下に残された蛍さんの父は、義弟の言葉に、
自分の娘が妻の実家の家とも繋がりがある者である事をはっきりと感じ、改めて家同士の結婚という物を考えていました。
その日の午後の事でした。診察にどうぞの看護婦さんの声で、蛍さんは父と階下の診察室に出掛けました。
診察室には先客がいて、丁度お医者様の治療を受けている最中でした。蛍さんはその子の後ろに並んで、治療が終わるのをを待っていました。
如何もその治療中の子の付き添いと、蛍さんの父は顔見知りのようです。
あら、とか、おや、とか言ってお互いにニヤニヤしていました。
それで、付き添い同士話が出来る状態の時に、彼女の父が如何されたんですか等と話しかけていました。
「いや、一寸ありましてね。」
家でも家の子が誰かに頭を叩かれまして、場所が場所だけに大事を取ってお医者様に診せに来たんです。
そう言った父の知人らしい人と、父のそれはお気の毒にという話を聞きながら、
蛍さんは目の前で今包帯を巻いて貰っている子供が、僕という言葉で男の子だという事に気が付きました。
『可哀そうに、私よりまだ小さい子なのに災難ね。』自分と同じように頭に怪我をするなんて、
しかも私とは違って、自分の不注意では無く誰かに叩かれて怪我をしたのだ。なんて要領の悪い子なんだろうと考えていました。
そこで、治療が終わってその子がこちらに振り向くのを興味深く待っていました。
『そんな要領の悪い子の顔ってどんな顔なのだろう?』そう思って包帯を巻かれた頭を見つめていました。