きゃーっと顔を背けて、一瞬蛍さんは2、3歩飛び退いて逃げようとしました。
そして再びその化け物に向き直ると、このまま逃げようか如何しようかと様子を窺いました。
彼女は化け物を見詰めながら、それが何を如何して欲しいのか判断しようとしていました。
また、何か言葉を話すかもしれないと思い、その言葉を聞こうとして耳にも神経を集中して見詰めるのでした。
この時です、近くにいた時にはフレフレとその手を振る様子も尋常でなく、
蛍さんにとって、これはやはり何だか見た事も無い化け物なのだろうとしか見えなかったものが、
こうやって少し離れて彼女にその全体像が見えてくると、
それはやはり緑の茎に葉のある、黄色い丸い花を咲かせた植物なのでした。
「あれ?」
蛍さんのしかめた顔の表情が緩みました。
彼女は『あれはお花だ。』と思いました。それが土から生えた花の形をしているものだという事が、この瞬間彼女にはよく分かったのです。
「ホーちゃん、そこだとよく見えないでしょう、こっちで向日葵の花を見てごらん。」
先生の1人が声を掛けてくれました。その先生は、
「そこだと逆光になって花がよく分からないのよ。小さい子は皆それで怖がるのよ。」
と優しく彼女に言うと、他の先生にもそうなのよと話し出すのでした。
「子供にすると、向日葵の方が背丈が大きいし、見る位置が逆光になっているから、多分見た事無い花だろうし、それで皆怖がって逃げて行くのよ。」
きっとそうなんだわとその先生が言うと、他の先生もそうなの?小さい子の臆病ばかりじゃないのね。等と同意しています。
その先生にこっちこっちと呼ばれて、蛍さんは先生の側迄行きました。
その時、ザーッ、ミシミシ、バタバタ、幼稚園の近隣の家が傾いで揺れて、バタバタと花壇の草花が倒れるように揺れて風の通り道が出来ました。
地面の砂が舞い上がって皆の目に入ると、先生は言いました。
「あー、もう本当に今日は風の酷い日ね、このままだとせっかくの向日葵が折れないか心配ね。」
咲いたばかりなのに可哀そうね。そうねと、花壇にいた他の2人の先生もこの先生に同意すると、
支えの棒を探して来ると言って、連れだって幼稚園の建物内に消えて行きました。
「ホーちゃん、勇気があるのね。」
傍らの先生が微笑みながら彼女に言いました。
「皆逃げて行ったのよ、女の子は特にね。」
そんな話を聞くと、蛍さんはそうだろうと相槌を打ちました。
今まで見て来た皆の様子と、彼女の目の前に白日の下に正体が晒された向日葵の花。
お日様に照らされて見事に花開いているこの花は、新鮮な煌くように明るい黄色い花弁をびしりと持ち、
地面からすっくと立ちあがると、巨大で葉も大きく、濃い緑で確りしています。
こうやって目の当たりにして隈なく観察出来た事で、彼女には大体の事の次第が納得出来たのでした。