彩を感じない地味な服装の人々の中で、お医者様のその白衣が白く目立って見えました。
お気の毒にと思うと、悲しむ人々を傍で見ているのが悪いように思えて、蛍さんはまた廊下へと戻って来ました。
廊下に出てみると、廊下の端に父がいました。蛍さんはすいっと父の傍へと戻って来ました。
その顔を覗き込むと父は泣いていました。赤い目に涙を浮かべ、しくしくと泣き出し、手で涙を拭っています。
「まだ幼いのに、もう行くだなんて。」
そんな言葉を呟いて涙に暮れているのでした。
『お父さん、他の家の人が亡くなってもそんなに悲しんで泣くなんて、』父は本当に人が良くて優しいなぁと、
蛍さんは感心し、何だかそんな優しい人が自分の父親だと思うと、彼女は感動して誇らしく思うのでした。
気が付くと蛍さんは病室のベッドに横たわっていました。開けた目には白い天井が映り、あれっと思うと、
彼女には、ここが病院だと思いつく迄には時間が掛かりました。
「あら、起きたんじゃないの。」
そんな声がして、彼女がその声の方を見ると、女の人が2人寄り添ってこちらの方に背を向けてひそひそ話をしていました。
「じゃあ、私が話をしてくるから。」
と、その女の人の1人が振り向いて蛍さんの方に近付いて来るのを見ると、その顔は近所の親戚の伯母さんなのでした。
「あら、伯母さん。」
蛍さんが声に出しました。おばさんは神妙な顔をしています。怒っている様にも見えました。
「ホーちゃん如何?気分は?痛くない?」
そう伯母さんは聞いてきます。蛍さんは笑って、
「伯母さんまで、私全然大丈夫なのに、皆で騒いでいるのよ。」
と、皆が大袈裟なのだと明るく訴えました。伯母さんもそんな蛍さんの様子に笑顔を浮かべると、
なぁんだという感じでしたが、起き上がろうとした蛍さんの目が、白黒白黒と揺れるように動く様子に、
「大丈夫じゃないわ。」
と慌てて言うと、本人が思っているように大丈夫じゃないんだわと、真顔で寝ていなさいねと蛍さんを静かに寝かしつけるのでした。
その後伯母さん達2人が水枕や氷嚢を入れ替えて冷たくしてくれたので、気持ちよくなった蛍さんは、
気持ちいいと呟くと、また深い眠りに落ちて行くのでした。