蛍さんは今まで見た皆の恐怖の形相から、
自分自身がまだ見ていない向日葵の花に、訳の分からない恐怖心を感じ取っていました。
内心酷くびくっと来るものを感じ、背筋にひんやりとした物が走りました。
肝が冷えて縮上がる感じです。彼女の足は竦んで花壇へと向かわず、その場で立ち止まってしまいました。
でも、種を撒いてからあれだけ見てみたいと長い間楽しみに待っていた向日葵の花です。
未知への好奇心が彼女の足を元の園庭の方へも向かわせず、じーっと彼女をその場に留めていました。
『どう仕様かしら、私も戻ろうかな。』
そう思いながら彼女が酷く迷っていると、花壇観察に行っていた先人の男の子達が何人か戻って来ました。
今まで泣き惑い逃げて行った子供達とは打って変わり、彼等は明るくにこやかでした。
笑顔で屈託なくしゃべり合い、意気揚々とのんびり歩いて来ます。先の女の子達と随分様相が違って見えます。
そこで蛍さんはその子達に歩み寄ると、
「向日葵どうだった?怖い花なんだって?」
と聞いてみました。すると、
「向日葵?特にどうっていう事も無いよ。」
なぁ、それがどうかしたのかいと、蛍さんの問い掛けが彼等には如何にも意外だという物言いをします。
向日葵?大きな花だったよな、ああ、大きい大きい、確かにな。等、彼らは笑って言うと、
あれだけ大きいと、なぁ、びっくりするよな、と言い、普段通り皆でにこにこして蛍さんを見つめます。
蛍さんは『なぁんだ。』と思い、普段から女の子達は弱々しいから、さっきの子達はかなり大袈裟なんだなと思いました。
彼女はこの男子達の平々凡々として如何にも平気な様子に、『私も向日葵見に行こうかな。』と思い始めました。
しかし、その矢先、彼等の内の1人の男の子が、いやに蒼ざめて黙っているのに彼女は気付きました。
蛍さんはその子を指し示して、あの子は怖そうだけどと他の子達に聞いてみました。
「ああ、あいつは臆病なんだよ、あんな花どうってことないさ、なぁ、皆、そうだよな。」
怖くなんてないよな。只の植わっている花じゃないか。他の花みたいに地面から動けるわけじゃ無し。ほら、追いかけても来ない。
そんな声掛けが彼等の間でされると、男子の間では向日葵は大丈夫という意見がまとまった様でした。
そして、彼等の中に混じっていた彼女と普段仲の良い1人の男の子が、
「ホーちゃん、ホーちゃんも見て来るといいよ、向日葵。見ないと損かもな、あんなに大きくて立派な花、お日様みたいだったぜ。」
と言うので、蛍さんは遂に向日葵の花を見に行く決心をしたのでした。