「お父さんだって不味そうだったじゃないの。」
蛍さんが抗議を込めた目で父を見詰めると、父は目の下を赤くして澄まして黙りこくっていましたが、
とうとう根負けしたように笑顔になると、そうだなぁ、確かにこの飯は不味いなぁ。そう言うと、布団の上に置かれた薬袋に目を止めました。
彼は袋に書かれた服薬回数や、服薬時などを読み、中の薬紙を数え始めました。
「やはり1個足りないか。」
そう言うと父は廊下に出て、丁度来合わせた看護婦さんに、
「薬紙が1つ足りないようです。家の家内が貰って来たんでしょうか?」
そんな事を尋ねていました。
看護婦さんは薬袋を受け取り、日付や、服薬回数、中の薬の数を数えて、確かに1個足りませんねと不思議そうでした。
「昼食が済んで、次の食事までの間に飲むんですから、まだ飲まれていないんでしょう。おかしいですね。」
薬の担当は殆ど間違いをした事が無い人なんですけど、と言うと
「申し訳ありません、下で確認してからお持ちしますね。」
そう言って階下へ降りて行きました。
「食間の薬を食事に混ぜたのか。」
あれのやりそうな事だと思うと、注意しておかなければいけないと父は思うのでした。
彼は妻が食間の服薬と書かれているのを、食事の間に薬を混ぜて飲ませる事なのだ、と勘違いしているのだと思ったのです。
暫くして蛍さんの母は病室に戻ってきました。
蛍さんの父は自分の妻に向かって聞いてみました。
「お前、食間の薬はいつ飲むか知っているのか?」
「知っているわよ、当たり前でしょう。」
幾つだと思っているんです。私だって人生経験は長いんですからね、そう言うと、夫からそっぽを向いてプンと澄まして見せました。
そこで夫は、
「お前、蛍の食間の薬を食事に混ぜたんじゃないのか。」
と笑いを押し殺して落ちついた声で尋ねてみました。