父は口をへの字に曲げたままで、義弟の勢いに返答も出来ないままその勢いに飲まれていました。すると、
「やぁ、あんたさん、来てくれたのかい。」
病室の入り口で明るい声が響き、蛍さんの祖父が顔を見せました。
「あんたの威勢の良い声が向こうまで聞こえたから、私も心丈夫で急いで駆けつけて来たよ。」
祖父は嬉しそうに満足げな笑顔を浮かべると、
「朝ご飯がまだなんじゃないか、一緒にどこかで食べて来よう。」
と叔父を誘いました。叔父も祖父のこのにこやかで明るい対応に、
「やぁ、お父さん、久しぶりです。この前はお世話になりました。また、良いものを頂きましてありがとうございました。」
そう言って笑顔になると、2人で和やかに話を始めました。
叔父は僕は朝ご飯は済ませて来ました。でも、お父さんが食べに行かれるならご一緒しましょう。
また商売の話しなど向学のために聞かせてください。この前の話の続きが聞きたいなぁと嬉しそうに語り掛けました。
おお、うんうんと、祖父もご満悦の体で、じゃあそこの食堂でと、話がまとまったところで2人は蛍さんの父を振り返り、
「お前その子の事は頼んだよ。大事な孫なんだから、気を付けるんだよ。」
「兄さん、ちゃんと見てやってください。ホーちゃんは僕にとっても可愛い姪なんです。どうかよろしくお願いします。」
そう父と義弟に言い置かれて、蛍さんの父は連れだって仲良く行ってしまった彼らに、むすっとして、
「何だい。2人して。」
と、そっぽを向くのでした。
何が確りなんだ、何がちゃんと見てやってくださいなんだ、お父さんだなんて、誰がお前の親なんだ。
と、蛍さんの枕元でブツブツ言っていました。
蛍さんには事情が分かりませんでしたが、急に叔父が現れたので驚いてしまいました。ほぼ半年ぶりに会った感じです。
何時も優しい叔父なので、久しぶりにその顔を見る事が出来た事は嬉しく思ったのですが、
目の前で父と叔父がどうやら喧嘩めいたことをしていたようなので、昨日の伯母と父の険悪な様子が再び思いだされて、
何だか酷く気が重くなってしまいました。
蛍さんは目を閉じるとまたすやすやと眠りの世界に入ってしまうのでした。
次に蛍さんが目を覚ましたのは、その日の午後に近い頃だったでしょうか。枕元には叔父が付き添っていました。