夜、何度目の放映か知らないが、日本テレビで『ルパン三世 カリオストロの城』をやっていた。さすが宮崎駿の劇場アニメ第1回監督作品。仕事をしながら、のつもりが、黄色のフィアット500(欲しい)とシトロエン2CVが疾走する冒頭から最後まで、ついついしっかり見てしまった。ラスト、銭形がクラリス(究極のヒロイン)に向かって言う「ルパンはとんでもないものを盗んでいきました」というセリフも歴史に残るよなあ。
ふと思いついて、今年2月に出た辻真先さんの『ぼくたちのアニメ史』を引っ張り出す。アニメ草創期から膨大な量の脚本を手がけてきた辻さん。視聴者としては、それこそ『鉄腕アトム』から『サザエさん』までお世話になってきたわけで、この小さな新書本の中には、数々のアニメのエピソードがぎっしり詰まっているのだ。
「アニメ史」だから、もちろん『ルパン三世 カリオストロの城』のことも出てくる。1979年、約30年前の公開当時のことだ。「動く、動く、走る、走る、飛ぶ! 最後に城の秘密が明かされた壮麗な画面に至るまで、ぼくは悔しいほど興奮した。これはエンタテインメントとしてのアニメの最高峰だと思った」とある。
しかし、注目すべきはその後の記述だ。この作品を、というかアニメをお子さまランチとしてしか扱わなかった映画会社の無理解もあって、『カリ城』はヒットしなかった。世評にも無視された。辻さんはいう。「伝説的作品となった現状しか知らないあなた、クラリスフリークのあなたにも、ぜひ覚えておいてほしい。ローマは一日にして成らなかったことを」。
どんなジャンルのどんな作品でも、評価が決まった後から、それを誉めそやすことは簡単だ。難しいのは、そのとき、その時代に、周囲に惑わされず、どれだけ正当な評価ができるか、なのだ。
辻さんは脚本だけでなく、小説もたくさん書いている。近著に『完全恋愛』があるが、これは「牧 薩次」名義だ。あとがき部分で、ちゃんと辻さん自身が明かしている。完全犯罪ならぬ完全恋愛とは何なのか。以下は、雑誌に書いた書評だ。
牧 薩次『完全恋愛』(マガジンハウス)
一気読み必死の「本格ミステリ」の登場だ。時代が異なる3つの殺人事件と時代を超えた恋愛が描かれる。著者は推理作家協会賞を受賞した、トリックの名手と呼ばれる人物。著者名はもう一つのペンネームだ。
物語は敗戦を目前にした昭和20年、福島県の温泉地から始まる。主人公の本庄究は疎開してきた中学生。後に彼が高名な画家になることなど本人も知らなかったこの頃、進駐軍の大尉が殺害される。しかも使われた凶器は消滅していた。
次の事件が起きたのは昭和43年。すでに究は柳楽糺という名で画壇の一角を占めている。福島の山奥にあったはずのナイフが、2300㌔離れた沖縄の西表島にいた少女の胸を突き刺さした。なぜ?どうやって?警察もお手上げだった。それから10年後、やはり福島の湖で男の水死体が見つかる。他殺が疑われたが、最も怪しいとされる人物には完全なアリバイがあった。事件当時、確かに東京にいたのだ。
そして平成19年、一人の“名探偵”が登場し、全ての謎を解き明かそうとする。3つの事件の背後に存在し、多くの人間の運命を変えたのは、本庄究が生涯をかけて愛した一人の女性だった。
ふと思いついて、今年2月に出た辻真先さんの『ぼくたちのアニメ史』を引っ張り出す。アニメ草創期から膨大な量の脚本を手がけてきた辻さん。視聴者としては、それこそ『鉄腕アトム』から『サザエさん』までお世話になってきたわけで、この小さな新書本の中には、数々のアニメのエピソードがぎっしり詰まっているのだ。
「アニメ史」だから、もちろん『ルパン三世 カリオストロの城』のことも出てくる。1979年、約30年前の公開当時のことだ。「動く、動く、走る、走る、飛ぶ! 最後に城の秘密が明かされた壮麗な画面に至るまで、ぼくは悔しいほど興奮した。これはエンタテインメントとしてのアニメの最高峰だと思った」とある。
しかし、注目すべきはその後の記述だ。この作品を、というかアニメをお子さまランチとしてしか扱わなかった映画会社の無理解もあって、『カリ城』はヒットしなかった。世評にも無視された。辻さんはいう。「伝説的作品となった現状しか知らないあなた、クラリスフリークのあなたにも、ぜひ覚えておいてほしい。ローマは一日にして成らなかったことを」。
どんなジャンルのどんな作品でも、評価が決まった後から、それを誉めそやすことは簡単だ。難しいのは、そのとき、その時代に、周囲に惑わされず、どれだけ正当な評価ができるか、なのだ。
ぼくたちのアニメ史 (岩波ジュニア新書 587)辻 真先岩波書店このアイテムの詳細を見る |
辻さんは脚本だけでなく、小説もたくさん書いている。近著に『完全恋愛』があるが、これは「牧 薩次」名義だ。あとがき部分で、ちゃんと辻さん自身が明かしている。完全犯罪ならぬ完全恋愛とは何なのか。以下は、雑誌に書いた書評だ。
牧 薩次『完全恋愛』(マガジンハウス)
一気読み必死の「本格ミステリ」の登場だ。時代が異なる3つの殺人事件と時代を超えた恋愛が描かれる。著者は推理作家協会賞を受賞した、トリックの名手と呼ばれる人物。著者名はもう一つのペンネームだ。
物語は敗戦を目前にした昭和20年、福島県の温泉地から始まる。主人公の本庄究は疎開してきた中学生。後に彼が高名な画家になることなど本人も知らなかったこの頃、進駐軍の大尉が殺害される。しかも使われた凶器は消滅していた。
次の事件が起きたのは昭和43年。すでに究は柳楽糺という名で画壇の一角を占めている。福島の山奥にあったはずのナイフが、2300㌔離れた沖縄の西表島にいた少女の胸を突き刺さした。なぜ?どうやって?警察もお手上げだった。それから10年後、やはり福島の湖で男の水死体が見つかる。他殺が疑われたが、最も怪しいとされる人物には完全なアリバイがあった。事件当時、確かに東京にいたのだ。
そして平成19年、一人の“名探偵”が登場し、全ての謎を解き明かそうとする。3つの事件の背後に存在し、多くの人間の運命を変えたのは、本庄究が生涯をかけて愛した一人の女性だった。
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