碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

キムタク候補と小説『当確への布石』

2008年05月13日 | テレビ・ラジオ・メディア
いや、速い、速い。昨日まで小学校の先生だったのに、一晩で(たった1回の放送で)国会議員のセンセイになっちゃった。フジテレビが、思いっきり観客をじらした上で、昨夜(12日)オンエアした『CHANGE』の初回スペシャルである。忘れないうちに印象をメモしておこう。

・議員二世だけど小学校教諭をしていたキムタク先生の「キャラ」は、立ち居振る
 舞い、言葉づかいも含め、結構好感度な造形。
・ドラマ開始早々に「いきなり選挙」という”怒涛の寄り”も成功していた。
・『踊る!大捜査線』で青島クン、こちらでは朝倉クンと、「サポートさせたら日
 本一の女優」への道を歩む深津絵里が着実にポイント。
・豪腕による”教育・指導”の阿部寛は、ジャンル変われど、まんま『ドラゴン
 桜』で任せて安心。
・キムタク候補の母に冨司純子。さすがの”有難感”で画面がゼイタクになる。
・政治と無関係だった人間でも、議員二世であれば、ある<システム>に乗ること
 で選挙に勝てる(議員になれる)というのは、まんまこの国の政治のリアル。
 それを、まあ、見事にぬけぬけと(というか無批判に)見せてくれたこと。
・ドラマとしては、テンポといい山場といい、きっちりプロの技で作られており、
 この内容であれば『ごくせん』初回SPの視聴率24.6%に負けないかもね。


政治を描いた小説はいくつもあるが、「選挙」そのものを舞台にした小説はあまりない。昨年6月に読んだ高山聖史『当確への布石』(宝島社)は珍しい1冊ということになる。

タイトルの当確とは、もちろん選挙での「当選確実」のこと。本書は“選挙サスペンス”とでもいうべき新趣向の一冊であり、第5回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞した。

セクハラ事件で失職した議員の議席をめぐって争われる、東京6区の衆議院統一補欠選挙。各党が推す立候補者に混じって、犯罪被害者の救済活動で知られる大原奈津子が出馬を決める。大学の教壇にも立つ彼女は、自身のゼミを母体とする支援チームを持っていた。

そんなとき、正体不明の団体からの推薦状が届く。彼らはかつての犯罪者たちの顔写真や現在の住所などを記したビラをまいていた。選挙には不利益となる迷惑な支持団体。奈津子は教え子の夫で以前は刑事だった平澤栄治に調査を依頼する。彼には事件で妻と娘を失うという辛い過去があった。

当選請負人といわれる選挙のプロ。執拗にスキャンダルを暴き出そうとする雑誌記者。素人集団ではあるが必死の選挙運動を展開する教え子たち。そして秘密を抱えた奈津子自身。様々な人間の思惑や陰謀が交差する選挙という名の“劇場”の裏側がリアルに描かれ、開票日へのカウントダウンが物語の緊迫感を高める。
当確への布石
高山 聖史
宝島社

このアイテムの詳細を見る