碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

本日の新書は、禅と笑いだ

2008年06月03日 | 本・新聞・雑誌・活字
総務省関係の会議があり、大井町線を旗の台で乗り換えて、会場のある五反田へと向かう。以前、五反田にあるスタジオで、レギュラー番組の収録をやっていた。この町の印象は、そのころとあまり変わらない。ガード下なんか、今でもどこか戦後っぽいし。

本日の新書、1冊目は横山紘一さんの『十牛図入門~「新しい自分」への道』(幻冬舎新書)だ。

中国・北宋時代の廓庵禅師の創案といわれる「十牛図」は、禅を学ぶための入門図だ。一人の「牧人」が、逃げ出した「牛」を探す旅に出る。ようやく見つけて飼い馴らすが、やがて姿を消していく・・。そんな様子が十枚の図で描かれている。この牧人とは「真の自己を探す者」であり、牛は「真の自己」を表す。いわば“自分探し”の物語なんだよね。

この図に導かれて10のプロセスを学ぶうちに、仏教学者である横山さんが人生の三大目的だとする「自己究明」「生死解決」「他者救済」の意味も、ほのかに見えてくる(はず)。今の自分から踏み出したい人には、格好の指南書かもしれない。

十牛図入門―「新しい自分」への道 (幻冬舎新書 (よ-2-1))
横山 紘一
幻冬舎

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「十牛図」で結構アタマを使ったので、少し揉みほぐすために、今度はお笑いの方向へ。山中伊知郎さんの『「お笑いタレント化」社会』(祥伝社新書)である。

「ボケ」と「ツッコミ」。「つかみ」に「サムい」。気がつけばそんな演芸用語が世の中にすっかり定着している。本書はお笑いプロデューサーである山中さんによる“お笑い文化論”だ。

山中さんは、80年代のフジテレビが「お笑い」の地位や価値を変え、吉本興業NSCなど養成所が「お笑い芸人」の質と量に影響を与えたと指摘する。そして今、「場の空気を読めること」がお笑い芸人の必須条件であり、それは一般社会でも求められる能力となった。コミュニケーション・ツールとしてのお笑いの歴史と現実が、豊富な実例と共に理解できる点が、この本のキモだ。

「お笑いタレント化」社会 (祥伝社新書110)
山中 伊知郎
祥伝社

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さて、本日の新書のラストは、演芸評論家である矢野誠一さんの『人生読本 落語版』(岩波新書)。

矢野さんは、落語から「けっして世のため、ひとのためにはならないが、貧しいながら楽しく人生を送るすべを学んできた」という。たとえば『三方一両損』では、金に対して「淡白であること」の美学、規範を。そして『二十四孝』からは「子供が親を思うよりも、親が子供を思う心のほうがはるかに深いこと」を教えられるというわけだ。

また、この本で嬉しいのが、矢野さんが接してきた落語家たちのエピソードだ。裁判を楽しんだ桂春団治や、”売り物”である幽霊の扱いに悩んだ三遊亭円朝などが登場する。これまた、まさに生きた教科書だと思う。

人生読本 落語版 (岩波新書 新赤版 1130)
矢野 誠一
岩波書店

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長~い会議が終わって、外に出たら、雨が降り出していた。五反田駅近くのパチンコ屋さんから流れてくるのはヒップホップだ。ヒップホップでNHKの朝ドラ「瞳」を連想し、そのまま「ちりとてちん」を懐かしく思った。きっと矢野さんの本のせいだろう。