碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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本日の新書は、スリリングなインタビューだ

2008年06月07日 | 本・新聞・雑誌・活字
本日の新書は、辻井喬さんと上野千鶴子さんの共著『ポスト消費社会のゆくえ』(文春新書)。

まず、この組み合わせが絶妙だ。かつて消費社会の一端を担った元セゾングループ代表と、セゾンの社史編纂にも携わった社会学者。焦点となるのは百貨店及びグループの盛衰と堤清二との関係だ。簡単にいえば、いかにして成功し、どのように失敗していったのか。そこに堤清二という特異な経営者はどんなふうに作用しているのか。もちろん責任問題も含めて。

見ものは上野さんの追求。何しろ社史を書いた一人だから、データはある。周辺への聞き取りもしてある。それに、団塊世代だから西武がターゲットとしてきた顧客であり、その盛衰には消費者側としても関わっている。

だから対談なのに、まるで尋問みたいに見える。でも、そこがこの本の面白さだ。辻井(堤)さんも、聞かれたことに真摯に答えていく。パルコへの「追随」とか、自身の決断の「失敗」とか、はっきり言うところが見事だ。

先鋭的な宣伝戦略、美術館などの文化事業で一時代を築いた企業が、大衆消費社会から個人消費の時代への転換という背景もあり、徐々に凋落していく過程は無残で、かつスリリングでもある。自分たちが生きてきた時代を、別の視点から見直すことにもなった。

新聞に、糸井重里さんのサイト「ほぼ日」が10周年を迎えたという記事が出た。糸井さんといえば、西武百貨店が80年代に次々と打ち出したヒット広告の立役者だ。その糸井さんの有名なコピー「おいしい生活。」が82年。この本によれば、そのあたりが、西武のピークだったというから驚く。後は下り坂だったのだ。

ポスト消費社会のゆくえ (文春新書 633)
辻井 喬,上野 千鶴子
文藝春秋

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