オバマ氏がアメリカ大統領に就任した。
昨夜、その模様を生中継で見ていて、「何かが(よき方向へ)変わるかもしれない」と思える国民はシアワセだなあ、と思った。わが国では、「それに引き比べて・・」という話になってしまうのが残念だ。
オバマ大統領の就任演説の中で、最も印象的な言葉は「責任」だった。
たぶん、今後、メディアからは<責任の時代>といったフレーズが発信されていくのではないか。
国の責任。国民(個人)の責任。選択の責任。何かを背負う責任。決して軽い言葉ではない。
ファーストレディのファッションだの、2人のお嬢さんが通う名門私立小学校の情報も結構だが、オバマ大統領によって何が変わり、何が変わらないのか、それはこの国とこの国の個人にどんな影響を与えるのか、といった報道が、もっと欲しい。
さて、放送批評懇談会が発行している月刊誌『GALAC(ぎゃらく)』の2月号が発売された。
ここに、昨年11月末に行われた公開シンポジウム「ギャラクシー賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」の<報告>を書かせていただいている。
盛況だった公開シンポジウム!
「ギャラクシー賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」報告
シンポジウムの話が出たのは、今年のギャラ
クシー賞報道活動部門の審査会が行われた夜だ
った。受賞作を制作した局は、東京だけでなく、
名古屋、金沢、札幌など全国各地にまたがって
いる。それぞれ見事な取り組みなのだが、キー
局のネット番組以外は基本的に各地域でしか見
られない。ならば、受賞作品を一挙に上映し、
その制作者の方々と語り合う機会を作れないだ
ろうか、ということになったのだ。
その後、幸いなことに放送批評懇談会と東京
工科大学メディア学部の共同主催という形が決
まり、今回の公開シンポジウム「ギャラクシー
賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」を開
くことができた。11月29日(土)午後、会場
である八王子の東京工科大学メディア・ホール
には350名を超す参加者が集まった。
シンポジウムは3部構成とした。各ブロック
では、東京の2局、名古屋と金沢、札幌の2局
の作品を上映し、その後、制作担当者と放送批
評懇談会の選奨委員が登壇。参加者も交えての
“語り合い”となる。
東京工科大学・軽部征夫学長の「大学にとっ
ても大変意義のある催し」という挨拶に続いて
第1部が始まった。上映作品は、TBS「“エ
コ偽装”報道」(選奨)と日本テレビ「『ネット
カフェ難民』キャンペーン」(優秀賞)である。
ただ、残念ながらTBSと日本テレビの制作者
は生放送や収録本番と重なってしまい、欠席。
放懇の堀木卓也さん(民放連)、小林英美さん
(読売新聞)、そしてコーディネーター・司会
の碓井という3名でのトークとなった。
堀木さんは、TBSが内部告発を受けて紙を
作るという“実証実験”を行った点を「テレビ
ならではの報道活動」と高く評価。また、リア
ルタイムで“難民”たちの現場を追った日本テ
レビの報道が、厚労省による実態調査へとつな
がっていったことに関して、小林さんが「新聞
は写真1枚とグラフだけで伝えられない。映像
の力を感じた」と述べた。そして、会場の参加
者からは、テレビが一つの問題を継続して報道
していくことの意義についての感想が語られた。
第2部では、名古屋テレビ「『どですか!』
生き生き まいらいふ」(選奨)とテレビ金沢
「人情物語 向こう三軒両どなり」(優秀賞)
を上映。パネラーは名古屋テレビの大池雅光さ
ん、テレビ金沢の辻本昌平さんと中崎清栄さん。
放懇からは上滝徹也さん(日大芸術学部教授)
と坂本衛さん(ジャーナリスト/報道活動委員
長)が参加した。
大池さんが「80歳以上の人に出ていただくこ
とで、押し付けがましくなく地域性を目指した」
と語り、辻本さんは「地域の人情をもう一度と
いう思いで制作している」。これに対して上滝さ
んからは「両作品の中には、人のふれ合いや互
助の精神という、生き方に関わる内容が盛り込
まれている」という指摘があり、坂本さんも「
報道というと不正追及などの一般的イメージが
ある。しかし、それだけではない」として、高
齢者問題にもこの2作品のような多様なアプロ
ーチがあることを強調した。
参加者からも「自分が暮らす地域のお年寄り
と、もっとコミュニケーションしたくなった」
という発言が出た。また、中崎さんからは、ギ
ャラクシー賞を受けたことで「地方でしこしこ
やっている(笑)地道な活動がやりやすくなっ
た」と感謝の言葉があった。
第3部の作品は、北海道テレビ「イチオシ!
『政務調査費』」(選奨)と札幌テレビ「ST
Vニュース『ニセコ町果実酒問題』報道」(大
賞)である。札幌から来てくださった寺内達郎
さん(北海道テレビ)と山谷博さん(札幌テレ
ビ)のお二人に、麻生千晶さん(作家)と坂本
衛さんが加わってのトークとなった。
麻生さんは、「イチオシ!」での地方議員に
対する取材について「追い詰められた顔、嘘を
ついている顔をブレずにじっと撮り続けたこと
に感心した」と言い、「心の奥底を垣間見せる、
素晴らしい人間凝視だ」と評価。寺内さんの「
場合によっては議員生命に関わってくる。“脇
を固める”ことが大事」という発言からは真剣
勝負の緊張感が伝わってきた。
「行政批判ではなく、これ皆さんどう思いま
すか?と問いかけたかった」と言うのは山谷さ
ん。その活動は、結果的に酒税法の不合理性を
衝く大きな成果を残すことになった。坂本さん
は「発表ジャーナリズムではなく、主張がある。
しかも、がなりたてずに、ユーモラスに、しつ
こく迫った」と成功のポイントを挙げた。
また、会場の参加者から「果実酒の報道は、
問題提起から決着まで、1年もかけていたこと
に驚いた。最後にペンションのオーナーや記者、
そしてスタジオのキャスターも一緒になって果
実酒で乾杯していたシーンに感動した」という
感想があり、山谷さんが「ニュースの中で乾杯、
という馬鹿馬鹿しさで終わりたかった。よくぞ
見てくださいました」と笑顔で答えていた。
第3部は最終ブロックということもあり、こ
の後、全体のまとめとなっていく。ギャラクシ
ー賞における「報道活動部門」の意味。報道活
動の多様性。地方局で多くの優れた取り組みが
行われていること。それらが、現在テレビがさ
らされている厳しい状況の中で、いかに大切な
ことかを、参加者と共に確認した。最後に山口
治男メディア学部長と坂本委員長の挨拶があり、
第1回目となるシンポジウムは無事閉幕した。
(月刊「GALAC」2009年2月号)
昨夜、その模様を生中継で見ていて、「何かが(よき方向へ)変わるかもしれない」と思える国民はシアワセだなあ、と思った。わが国では、「それに引き比べて・・」という話になってしまうのが残念だ。
オバマ大統領の就任演説の中で、最も印象的な言葉は「責任」だった。
たぶん、今後、メディアからは<責任の時代>といったフレーズが発信されていくのではないか。
国の責任。国民(個人)の責任。選択の責任。何かを背負う責任。決して軽い言葉ではない。
ファーストレディのファッションだの、2人のお嬢さんが通う名門私立小学校の情報も結構だが、オバマ大統領によって何が変わり、何が変わらないのか、それはこの国とこの国の個人にどんな影響を与えるのか、といった報道が、もっと欲しい。
さて、放送批評懇談会が発行している月刊誌『GALAC(ぎゃらく)』の2月号が発売された。
ここに、昨年11月末に行われた公開シンポジウム「ギャラクシー賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」の<報告>を書かせていただいている。
盛況だった公開シンポジウム!
「ギャラクシー賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」報告
シンポジウムの話が出たのは、今年のギャラ
クシー賞報道活動部門の審査会が行われた夜だ
った。受賞作を制作した局は、東京だけでなく、
名古屋、金沢、札幌など全国各地にまたがって
いる。それぞれ見事な取り組みなのだが、キー
局のネット番組以外は基本的に各地域でしか見
られない。ならば、受賞作品を一挙に上映し、
その制作者の方々と語り合う機会を作れないだ
ろうか、ということになったのだ。
その後、幸いなことに放送批評懇談会と東京
工科大学メディア学部の共同主催という形が決
まり、今回の公開シンポジウム「ギャラクシー
賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」を開
くことができた。11月29日(土)午後、会場
である八王子の東京工科大学メディア・ホール
には350名を超す参加者が集まった。
シンポジウムは3部構成とした。各ブロック
では、東京の2局、名古屋と金沢、札幌の2局
の作品を上映し、その後、制作担当者と放送批
評懇談会の選奨委員が登壇。参加者も交えての
“語り合い”となる。
東京工科大学・軽部征夫学長の「大学にとっ
ても大変意義のある催し」という挨拶に続いて
第1部が始まった。上映作品は、TBS「“エ
コ偽装”報道」(選奨)と日本テレビ「『ネット
カフェ難民』キャンペーン」(優秀賞)である。
ただ、残念ながらTBSと日本テレビの制作者
は生放送や収録本番と重なってしまい、欠席。
放懇の堀木卓也さん(民放連)、小林英美さん
(読売新聞)、そしてコーディネーター・司会
の碓井という3名でのトークとなった。
堀木さんは、TBSが内部告発を受けて紙を
作るという“実証実験”を行った点を「テレビ
ならではの報道活動」と高く評価。また、リア
ルタイムで“難民”たちの現場を追った日本テ
レビの報道が、厚労省による実態調査へとつな
がっていったことに関して、小林さんが「新聞
は写真1枚とグラフだけで伝えられない。映像
の力を感じた」と述べた。そして、会場の参加
者からは、テレビが一つの問題を継続して報道
していくことの意義についての感想が語られた。
第2部では、名古屋テレビ「『どですか!』
生き生き まいらいふ」(選奨)とテレビ金沢
「人情物語 向こう三軒両どなり」(優秀賞)
を上映。パネラーは名古屋テレビの大池雅光さ
ん、テレビ金沢の辻本昌平さんと中崎清栄さん。
放懇からは上滝徹也さん(日大芸術学部教授)
と坂本衛さん(ジャーナリスト/報道活動委員
長)が参加した。
大池さんが「80歳以上の人に出ていただくこ
とで、押し付けがましくなく地域性を目指した」
と語り、辻本さんは「地域の人情をもう一度と
いう思いで制作している」。これに対して上滝さ
んからは「両作品の中には、人のふれ合いや互
助の精神という、生き方に関わる内容が盛り込
まれている」という指摘があり、坂本さんも「
報道というと不正追及などの一般的イメージが
ある。しかし、それだけではない」として、高
齢者問題にもこの2作品のような多様なアプロ
ーチがあることを強調した。
参加者からも「自分が暮らす地域のお年寄り
と、もっとコミュニケーションしたくなった」
という発言が出た。また、中崎さんからは、ギ
ャラクシー賞を受けたことで「地方でしこしこ
やっている(笑)地道な活動がやりやすくなっ
た」と感謝の言葉があった。
第3部の作品は、北海道テレビ「イチオシ!
『政務調査費』」(選奨)と札幌テレビ「ST
Vニュース『ニセコ町果実酒問題』報道」(大
賞)である。札幌から来てくださった寺内達郎
さん(北海道テレビ)と山谷博さん(札幌テレ
ビ)のお二人に、麻生千晶さん(作家)と坂本
衛さんが加わってのトークとなった。
麻生さんは、「イチオシ!」での地方議員に
対する取材について「追い詰められた顔、嘘を
ついている顔をブレずにじっと撮り続けたこと
に感心した」と言い、「心の奥底を垣間見せる、
素晴らしい人間凝視だ」と評価。寺内さんの「
場合によっては議員生命に関わってくる。“脇
を固める”ことが大事」という発言からは真剣
勝負の緊張感が伝わってきた。
「行政批判ではなく、これ皆さんどう思いま
すか?と問いかけたかった」と言うのは山谷さ
ん。その活動は、結果的に酒税法の不合理性を
衝く大きな成果を残すことになった。坂本さん
は「発表ジャーナリズムではなく、主張がある。
しかも、がなりたてずに、ユーモラスに、しつ
こく迫った」と成功のポイントを挙げた。
また、会場の参加者から「果実酒の報道は、
問題提起から決着まで、1年もかけていたこと
に驚いた。最後にペンションのオーナーや記者、
そしてスタジオのキャスターも一緒になって果
実酒で乾杯していたシーンに感動した」という
感想があり、山谷さんが「ニュースの中で乾杯、
という馬鹿馬鹿しさで終わりたかった。よくぞ
見てくださいました」と笑顔で答えていた。
第3部は最終ブロックということもあり、こ
の後、全体のまとめとなっていく。ギャラクシ
ー賞における「報道活動部門」の意味。報道活
動の多様性。地方局で多くの優れた取り組みが
行われていること。それらが、現在テレビがさ
らされている厳しい状況の中で、いかに大切な
ことかを、参加者と共に確認した。最後に山口
治男メディア学部長と坂本委員長の挨拶があり、
第1回目となるシンポジウムは無事閉幕した。
(月刊「GALAC」2009年2月号)
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