碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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映画『劔岳 点の記』は、ひたすら“労作”  

2009年08月02日 | 映画・ビデオ・映像
映画『劔岳 点の記』を観てきた。

名カメラマンである木村大作さんの初監督作品だ。

感想をひと言でいうなら、“労作”。

これ以外にない。

傑作とか、佳作とか、力作とか、問題作とか、そんなことじゃなく、ひたすら“労作”(笑)。

よく撮りましたねぇ、よく作り上げましたねぇ、と頭が下がる。

明治時代の測量隊には、映画の中でも山岳会のリーダー(仲村トオル)も言っていたけど、山に登るだけでなく、登った後に測量という大仕事が待っていた。

確かに大変だったと思うが、平成の世でも、キャストとスタッフと機材とが、あの険しい山に登って、その山の上で演技をし、それを撮影して映画にするのだから、大変さでは引けを取らない。

CGなし、代役なし(浅野忠信、香川照之たちに拍手)、の臨場感は伝わってくる。

それより何より、実際に山の上で撮られた風景がすごい。木村監督と木村カメラマンが一体となった、執念の映像がそこにある。

元々、いわゆる波乱万丈の派手な物語ではないわけだし(実際、退屈と感じるところもある)、作品評としても、何ヵ所かのアドリブ風の奇妙な“間”のことや、複数の登場人物の“こころの声”が出てくることなど、突っ込み処はいくつもあります。

まあ、そのあたりも押しのける“実写パワー”が、この映画の身上でしょう。

映画館の中が涼し過ぎたこともあり、鑑賞中は、吹雪の剣岳にいるようなバーチャル気分。

観客は中高年の“大人”が中心で、終了後は、下山した測量隊のように、皆、よれよれでした(笑)。

ラストのクレジットのロールは、「仲間たち」という表示で、原作の新田次郎さん以外は、出演者やスタッフの名前だけが“肩書き”なしで、延々と流れた。これも木村監督の熱い思いの表現なのだろう。

まずは、おつかれさまでした。


追記:
それにしても、香川照之は、『20世紀少年』『ディア・ドクター』『劔岳』と、ほんと、どんな人物にでもなっちゃうなあ。

感心する。

“日本のラッセル・クロウ”か、“日本のケビン・スペイシー”と呼ぼう(笑)。


劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))
新田 次郎
文芸春秋

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