碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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Nスペ「草間彌生の全力疾走」は人物ドキュメンタリーの力作

2012年10月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

日刊ゲンダイに連載している番組時評「TV見るべきものは!!」。

今週の掲載分では、NHKスペシャル「水玉の女王 草間彌生の全力疾走」を取り上げました。


精神科病院が“自宅”の前衛芸術家に
完全密着した力作

先週28日のNHKスペシャル「水玉の女王草間彌生の全力疾走」。今年83歳になる前衛芸術家を追った、人物ドキュメンタリーの力作だった。

ちなみに、昨年夏のBSプレミアム「世界が私を待っている~前衛芸術家草間彌生の疾走」は、ギャラクシー賞テレビ部門の「選奨」に輝いている。今回の番組はその後の1年半に密着。軸となるのは草間が挑む100枚の新作である。

アーティストが創作する現場を撮ることはかなり難しい。ましてや草間は精神科病院を“自宅”とし、車いすでアトリエに向かう状態だ。精神的にも肉体的にも不安は多い。彼女がカメラという“非日常”の存在を拒否しても不思議ではないのだ。

しかし、番組はほぼ完全に密着する。「私って、どうしてこう天才なんだろう」とつぶやきながら絵筆を握る草間がほほ笑ましい。

また創作と並行して、草間が積極的に関わる「ビジネス」の部分にまでカメラを向けていた。取材対象者と取材する側との信頼関係がなければできないことだ。しかも番組は“天才”草間に媚びてはいない。敬愛しながらも冷静に距離を保って撮っている。この距離感が実に見事だ。

かつて活動拠点のアメリカから志半ばで帰国した草間。今回ヴィトンとのコラボでニューヨークを訪れるシーンは“女王の凱旋”のようだった。疾走はまだ続きそうだ。

(日刊ゲンダイ 2012.10.03)