日刊ゲンダイに連載している番組時評「TV見るべきものは!!」。
今週の掲載分では、NHKスペシャル「水玉の女王 草間彌生の全力疾走」を取り上げました。
精神科病院が“自宅”の前衛芸術家に
完全密着した力作
完全密着した力作
先週28日のNHKスペシャル「水玉の女王草間彌生の全力疾走」。今年83歳になる前衛芸術家を追った、人物ドキュメンタリーの力作だった。
ちなみに、昨年夏のBSプレミアム「世界が私を待っている~前衛芸術家草間彌生の疾走」は、ギャラクシー賞テレビ部門の「選奨」に輝いている。今回の番組はその後の1年半に密着。軸となるのは草間が挑む100枚の新作である。
アーティストが創作する現場を撮ることはかなり難しい。ましてや草間は精神科病院を“自宅”とし、車いすでアトリエに向かう状態だ。精神的にも肉体的にも不安は多い。彼女がカメラという“非日常”の存在を拒否しても不思議ではないのだ。
しかし、番組はほぼ完全に密着する。「私って、どうしてこう天才なんだろう」とつぶやきながら絵筆を握る草間がほほ笑ましい。
また創作と並行して、草間が積極的に関わる「ビジネス」の部分にまでカメラを向けていた。取材対象者と取材する側との信頼関係がなければできないことだ。しかも番組は“天才”草間に媚びてはいない。敬愛しながらも冷静に距離を保って撮っている。この距離感が実に見事だ。
かつて活動拠点のアメリカから志半ばで帰国した草間。今回ヴィトンとのコラボでニューヨークを訪れるシーンは“女王の凱旋”のようだった。疾走はまだ続きそうだ。
(日刊ゲンダイ 2012.10.03)
