「未来志向」日ロに隔たり 領土交渉長期化不可避 ロシア、首脳会談前に実効支配誇示
【ウラジオストク小林宏彰、則定隆史】ロシアのプーチン大統領との通算27回目の会談に臨んだ安倍晋三首相は5日、北方領土問題を含む平和条約締結交渉の停滞を打破することはできなかった。両首脳は「未来志向」で交渉を継続することでは一致したものの、具体的な道筋は見えないまま。国内の支持離れを警戒するプーチン政権は対日関係でも強硬姿勢を強めており、首相の対ロ外交戦略は不透明感をさらに強めた。
「未来に向けて議論していきたい」。首相は会談冒頭、平和条約問題の進展に向け、幅広い分野で日ロ関係を強化する考えを強調。一方のプーチン氏は「現状だけでなく、今後の共同ステップについても議論したい」と述べたが、平和条約への言及はなかった。
ロシア政府主催の東方経済フォーラム出席のため、4年連続で極東ウラジオストクを訪れた首相。当初は大きな節目になると想定していた6月の大阪での首脳会談が「不発」に終わり、停滞する交渉の立て直しを迫られていた。2013年に両首脳が発表した共同声明にも明記された「未来志向」を再び確認した背景には、四島領有は「第2次世界大戦の結果」だと主張するロシアとの歴史認識を巡る対立から抜けだし、議論を進めたい思惑がにじむ。
■共同発表なし
ただロシア側は8月にメドベージェフ首相が択捉島訪問を強行。プーチン氏も会談直前の5日未明、色丹島の水産加工場の稼働式にテレビ中継で出席し、四島の実効支配を誇示する姿勢を鮮明にしていた。会談後には両首脳の共同記者発表が行われなかっただけでなく、これまでのように首相が日本メディアに「成果」を語る場面もなかった。
会談後に行われた同フォーラムの全体会合でも、ロシアが主導権を握った。
「平和条約の締結という歴史的使命がある。ゴールまで、ウラジーミル、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」。首相は演説で、プーチン氏にファーストネームで呼びかけ、2人で平和条約締結を目指す決意を改めて表明した。
昨年の全体会合では、プーチン氏が首相の演説を逆手に取るように「前提条件なしで年内に平和条約を締結しよう」と唐突に提案した。今年はプーチン氏は演説を終えた首相を肩を抱いて歓迎したものの、政権に近いロシア人司会者が日本政府が北方領土のロシア人住民に査証(ビザ)を発行していないことは「ばかげたことだ」と追及した。
首相は「そうした問題を乗り越えていく必要がある。未来を見つめながら議論を進めている」と説明したが、プーチン氏も北方領土への元島民の墓参などを認め「こちらは(安倍)首相の希望に歩み寄っている」と述べ、日本側の対応に不満をにじませた。
またプーチン氏は日ロの平和条約締結問題は「2国間の枠内には収まらない」と述べ、日米安全保障条約に基づく日本の米国に対する責務などを考慮する必要があると改めて指摘。日本が導入する米国製の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」は極東ロシアを射程に収める攻撃兵器だとも批判し、首相は「日本が運用する防衛的なものだ」と反論に追われた。
■継続には意欲
プーチン氏は全体会合で「私たちは完全な解決に向かって進んでいく。平和条約の締結に努力する」と日ロ交渉の継続には意欲を示した。ただ8日に統一地方選を控えるロシア国内では、年金受給開始年齢の引き上げや強権的な政治体制への不満が高まっており、政権与党「統一ロシア」の支持率は7月に過去最低の28%まで下落。愛国主義を鼓舞して支持を集めてきたプーチン政権が領土問題で日本に譲歩するのはより難しくなっており、交渉の長期化は避けられない情勢だ。