2022年01月07日
リポート 北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[#9洋上風力発電と漁業 海外の経験 米国東西漁業 気候変動を起点とした脅威を共有する]
米国北東部ニューイングランドと北部太平洋沿岸地域アラスカの漁船団は、5,000マイル離れた地元沿岸沖合で、気候変動による2つの脅威に直面している。
双方の漁船団の経営は、水温の上昇による海洋環境の変化と、米国の立案者による性急な政策でリスクに満ちている。
2022年1月5日、漁業に優しい気候変動対策を支持する独自の声明を作成し発信する活動を行う米国の水産業界ネットワーク・プラットフォーム”漁業に優しい気候変動への取り組み”(Fishery Friendly Climate Action:FFCA)が主催したWEB会合において、漁業団体の”米国水産物生産者”(Seafood Harvesters of America)代表のクリス・ブラウンは、気候変動とそれに対する解決策のどちらが先に、自らの先行きを決めるのか分からないと語り、モデレータを務めたFFCAのサラ・シューマンが、問題が急速に進んでおり、ゲームのあり方を改善する必要があると加えた。
アラスカのベーリング海のズワイガニとタラバガニ資源の崩壊の主原因は、海水温の上昇であることが指摘されており、禁漁措置による経済の打撃は5億ドルに及ぶ可能性があると見積もられている。
アラスカのベーリング海カニ漁業協会常務理事ジェイミー・ゴーエンは、ベーリング海のカニ漁業が*”炭鉱のカナリア”にされていると語り、気候変動の解決策を優先事項にする必要があると述べた。
一方、西海岸水産物加工協会常務理事ロリ・スティールは、オレゴン州とカリフォルニア州の太平洋沿岸沖合の海洋環境の変化と洋上風力発電開発のための政府と地元行政のエネルギー計画により2重のリスク、脅威にさらされていると語り、漁業分野が、どのタンパク質生産業よりも気候への影響が小さく、この分野を追い詰めて廃業に追い込むことは、信じられないほど近視眼的だと加えた。
FFCAも、漁業者が、気候変動の影響の最前線に立っているが、それに対処するために導入される脱炭素化戦略のいくつかによって、等しく影響を受けていると指摘している。
これらの将来の影響に関するいくつかの警告がニューイングランドで表面化している。
2021年、米国海洋大気庁(NOAA)が海洋エネルギー管理局(BOEM)に、北東部のタラの産卵行動と絶滅の危機に瀕している北大西洋セミクジラに影響を与える可能性のある洋上風力プロジェクトについて通報を行った。
プロジェクト計画はやや縮小したが、NOAAはBOEMが科学的根拠を無視した欠陥のある内容を決定したと批判している。
事業化開発者の”オーステッドAS”(Orsted AS) と ”エヴァーソース・エナジー”(Eversource Energy)はこの件についてコメントを控えるとしている。
*”炭鉱の中のカナリア”(like a canary in a coal mine)という表現。これはまだ起きていない危険や、目では感知できない危険を知らせる人、または状況を意味している。昔、英国と米国の炭鉱員が地下に降りるとき、行列の先頭がカナリアのカゴを持って炭鉱に入った。